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あなたのことが、好きだった。好きだったら、何をしてもいいと思っていた。

「だから、いじめたのか?」
成くんが言った。成くんの声のあまりの冷たさに体が震えそうになるけど、ぐっと、手を握りしめる。

 「だって、だって、その子成くんのことが好きだって言うんだもん! 成くんは私のものなのに!」

かたかたと震えながら私を見る少女を睨み付けていうと、成くんはその子を庇うように前に出た。

 「真白、僕は君のものになった覚えは一度もない。それに、僕に友人ができる度に排除されるなんて、やってられない。もう無理だ。婚約を解消しよう」
「え──」

 成くんは何て言った? 婚約を、解消?

 「……そんなこと、できっこない! パパとおじ様が結んだ婚約を解消するなんて」
「元々、八条グループのほうから頼み込んで結ばれた婚約だ。僕が望めば、いつでも破棄できる」
嘘。嘘よ。

 聞きたくないと首を振ると、ゆっくりと成くんは近づいた。
「真白、君は変わった。前は、あんなにいい子だったのに」

 そういって私の左手をとったかと思うと、薬指の婚約指輪を抜き取り、ゴミ箱に捨てた。

「成くん!?」

 慌てて、ゴミ箱から指輪を探す。
「いこう、佑月」
私が探している間に、成くんはあの子を立たせると、教室を出ていった。





 

 指輪はかつての輝きを失っていた。それでも、私と成くんを結ぶ大切な指輪だった。
『僕と結婚してくれる?』
幼かった私の薬指にはぶかぶかな指輪をはめてくれた成くんのことを今でもはっきり覚えている。

 ようやく見つけた指輪の汚れを水道で洗い落として、考える。

 確かに、あの子をいじめたのはやりすぎだったかもしれない。

 あの子と成くんに謝ろう。そしたら、許してくれるよね? 婚約解消だって、なくなるはず。けれど、そんな私の思いは打ち砕かれた。

 電話だ。パパから?

 「……真白」
「パパ?」
どうしたの。そう尋ねるには、パパの声は何かを諦めきった声だった。

 「成海くんから聞いたよ。婚約を解消したいと」
「そのことなんだけどね、パパ──」
「成海くんは、もう真白の姿を見たくないそうだ。五反田グループに睨まれたら、私もやっていけない。だから、真白。転校しよう」
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