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運命の代わりに
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目が合うと、頭の中から、コーデリアのことが消えて、徐々に少女のことで侵食される。この子を、愛したい。愛して、僕のものにしたい。
「ねぇ、いいでしょう?」
少女は甘く囁く。その甘さに、蕩けそうになる。
「ぼく、は、君を、」
僕が、愛しているのは。本当に一緒にいたいと想うのは。
「──ジャレッド!」
強く、僕の名前を呼ぶ声に、現実に引き戻された。
「……コーデリア」
愛しい名前が、唇からこぼれ落ちる。
少女は、肩で息をしているコーデリアをみて呆然とした。
「どうして。貴女には、番がいるはずじゃ……! その番が貴女と共に街を出るって」
「だって、私は──、誰よりもジャレッドを、愛しているもの。誘いには、乗らなかったわ」
そうだ、僕も誰よりもコーデリアを愛している。僕たちは、運命に結ばれていないけれど、お互いを想う強さは、誰にも負けなかった。
かけてきたコーデリアの手を強く握りしめる。この熱を愛しく思った。
「申し訳ないけれど、僕は君を、シンディを愛することはできないし、一緒に街を出ていかない。僕は、コーデリアと共にこの街を出る」
僕がそう言うと、彼女は大粒の涙を流した。
「どうして!? どうしてなの、私たちは番なのに! 運命なのに!!」
「……すまない」
僕が深く頭を下げると、彼女は、低く呟いた。
「……よ! 貴女は、竜人として、欠陥品だわ」
そうかもしれない。本来なら、番を愛すべきなのに、僕は彼女を愛せないのだから。
「……すまない」
だから、僕はただ、謝るしかない。それが、精一杯の彼女にできることだった。
「貴女たちは、絶対に幸せになんてなれない! 精々、番を捨てたことを後悔すればいいんだわ!」
そう叫んだあと、少女は駐屯地を出ていった。
一ヶ月後。僕たちは予定通り、街を出た。
そして──。
「コーデリア、とても、綺麗だ」
純白のドレスを身に纏ったコーデリアに微笑む。
「ありがとう。ジャレッドも世界一格好いいわ」
そういって微笑み返したあと、コーデリアは続けた。
「私ね、ジャレッドの運命になりたかった。ずっと、そう思ってた。でもね、もういいの。私たちは、運命じゃないかもしれないけれど、その代わりに自分の『意思』を手にいれたから」
そうだ、僕たちは誰かに決められた訳じゃない。自分の意思でそれぞれを選んだ。
僕は、そう答える代わりに、愛しいコーデリアの唇に口付けた。
遠くで、僕たちを祝福するように、鐘がなる。たった二人だけの参列者もいない、結婚式。けれど、僕らは幸せだ。
■ □ ■
「ジャレッド、お客さんよ」
僕の愛しい妻が、僕を呼ぶ。振り返ると、竜人の男性が、緊張した面持ちで、僕を見つめていた。
僕たちは、なるべくあの街から離れた場所を選んだにも関わらず、どこからもれたのか、僕たちが番でないという事実はあっという間に広がった。職場でも、竜人として欠陥品だと、迫害されることもあった。それでも、僕らは互いの手を離さなかった。すると、少しずつ、少しずつだけれど、僕らを理解してくれる人たちが、できた。
そう、例えば、こんな彼を筆頭に。
「俺、番じゃないけど、好きになった人がいるんです。それでも、幸せになれますか?」
心配そうな顔した彼に笑って、コーデリアを引き寄せた。
「その答えは、目の前に」
僕たちは、幸せだ。
「ねぇ、いいでしょう?」
少女は甘く囁く。その甘さに、蕩けそうになる。
「ぼく、は、君を、」
僕が、愛しているのは。本当に一緒にいたいと想うのは。
「──ジャレッド!」
強く、僕の名前を呼ぶ声に、現実に引き戻された。
「……コーデリア」
愛しい名前が、唇からこぼれ落ちる。
少女は、肩で息をしているコーデリアをみて呆然とした。
「どうして。貴女には、番がいるはずじゃ……! その番が貴女と共に街を出るって」
「だって、私は──、誰よりもジャレッドを、愛しているもの。誘いには、乗らなかったわ」
そうだ、僕も誰よりもコーデリアを愛している。僕たちは、運命に結ばれていないけれど、お互いを想う強さは、誰にも負けなかった。
かけてきたコーデリアの手を強く握りしめる。この熱を愛しく思った。
「申し訳ないけれど、僕は君を、シンディを愛することはできないし、一緒に街を出ていかない。僕は、コーデリアと共にこの街を出る」
僕がそう言うと、彼女は大粒の涙を流した。
「どうして!? どうしてなの、私たちは番なのに! 運命なのに!!」
「……すまない」
僕が深く頭を下げると、彼女は、低く呟いた。
「……よ! 貴女は、竜人として、欠陥品だわ」
そうかもしれない。本来なら、番を愛すべきなのに、僕は彼女を愛せないのだから。
「……すまない」
だから、僕はただ、謝るしかない。それが、精一杯の彼女にできることだった。
「貴女たちは、絶対に幸せになんてなれない! 精々、番を捨てたことを後悔すればいいんだわ!」
そう叫んだあと、少女は駐屯地を出ていった。
一ヶ月後。僕たちは予定通り、街を出た。
そして──。
「コーデリア、とても、綺麗だ」
純白のドレスを身に纏ったコーデリアに微笑む。
「ありがとう。ジャレッドも世界一格好いいわ」
そういって微笑み返したあと、コーデリアは続けた。
「私ね、ジャレッドの運命になりたかった。ずっと、そう思ってた。でもね、もういいの。私たちは、運命じゃないかもしれないけれど、その代わりに自分の『意思』を手にいれたから」
そうだ、僕たちは誰かに決められた訳じゃない。自分の意思でそれぞれを選んだ。
僕は、そう答える代わりに、愛しいコーデリアの唇に口付けた。
遠くで、僕たちを祝福するように、鐘がなる。たった二人だけの参列者もいない、結婚式。けれど、僕らは幸せだ。
■ □ ■
「ジャレッド、お客さんよ」
僕の愛しい妻が、僕を呼ぶ。振り返ると、竜人の男性が、緊張した面持ちで、僕を見つめていた。
僕たちは、なるべくあの街から離れた場所を選んだにも関わらず、どこからもれたのか、僕たちが番でないという事実はあっという間に広がった。職場でも、竜人として欠陥品だと、迫害されることもあった。それでも、僕らは互いの手を離さなかった。すると、少しずつ、少しずつだけれど、僕らを理解してくれる人たちが、できた。
そう、例えば、こんな彼を筆頭に。
「俺、番じゃないけど、好きになった人がいるんです。それでも、幸せになれますか?」
心配そうな顔した彼に笑って、コーデリアを引き寄せた。
「その答えは、目の前に」
僕たちは、幸せだ。
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確かにお互いの相性は最高なんでしょうけど、ジャレットとコーデリアのお互いを思い合う強い「意思」は勿論、二人が今までに培った「絆」も運命に勝った一因だと思います。
意外と二人に振られてしまったカイルとシンディが、お互い別々の人と結婚して幸せになってたら有る意味ざまぁで面白いかもですねw
お読みくださり、ありがとうございます。そうですね、確かにこのお話では運命よりも本能的な部分が勝っているかもしれません。シンディとカイルのその後につきましては、後日、番外編を書けたらいいなぁと思っております。