上 下
14 / 27

頭突き

しおりを挟む
 そこで、私がとった選択は。
「……そう、でしたか?」
 首をかしげる。何とかしてこの場をやり過ごすしかない。
「そうだよ」
 けれど、リッカルド様はそんな私を見て、目を細めた。
 私の指に、リッカルド様の指がからめられる。
「!」
 思わずびくりと体を揺らした。
「僕に手段を選ばなくさせたのは──君だ」
「私、は……」
 私は、ただあなたに生きていてほしくて。
 けれど、喉が乾いて言葉にならない。

「ねぇ、ソフィア嬢」

 リッカルド様は、そっと囁く。
「君を閉じ込めてしまおうか」

 またまた、ご冗談を~。リッカルド様にはメリア様がいらっしゃるじゃないですか。
 ……なんて、いえる雰囲気じゃない。

 代わりにでてきたのは、
「ど、して……」

 どうして今のあなたが私に執着するのか。
 わかりきったことを問う、言葉だった。
「……そう。あれだけ言ったのにわからないんだね」

 いや、わかってる。私が自分を蔑ろにするから。蔑ろにする人を、自分を粗末に扱う人を、リッカルド様は許さない。赦せない。
「リッカルド様は……」
「うん?」
「私のようなものがいる度に、いちいち婚約を結ぶおつもりですか?」

 い、言っちゃったー!!!
 声に出してからしまったと思うけれど、もう遅い。一度でた言葉は取り消せないのだ。

 でも、でもね、リッカルド様。
 私たちは、もう子供とは言えない年だ。
 自分の責任は、自分で持たなくてはならない。
 だから……。
「……君は、僕のことをそんな風に思ってるんだ」
 君の考えはよくわかったよ、と言われた。
「まさか、僕が誰にでもこんなことをすると思われているなんて」

 こうすれば、伝わるんだろうか。
 リッカルド様は囁いて、顔を近づけた。

 リッカルド様の長い睫毛がふれそうになるほど、近い。
 けれど、それを意識する前に──。

 鈍い音を立てて、私の額とリッカルド様の額が衝突した。否、衝突させた。

「!?」

 リッカルド様が驚いた顔をして、私から距離ができる。その隙を見逃さなかった。
「申し訳ありません、リッカルド様! 私、とても大事な用事を思い出したので、これで!!」

 ベッドから転がり落ちるようにして、その場を去る。


「はあっ、はあっ……」

 全力で女子寮までをかけた。
 心臓がどくどくと脈打っている。
 その理由が、走っているせいだけではないと知りながら、私はその感情から目を、逸らした。

◇ ◇ ◇
 ──今日は散々な目に遭ったわ。
 自室に戻り、息をはく。
『ソフィア』
 自室では実体化した、悪魔が不機嫌そうな目でじっとりと私を見ている。
「……わかってるわ」

 ちゃんと、わかってる。
 私は、悪魔の贄だ。それ以上でも、それ以下でもない。

「私は……」
 あなたが生きていてくれる世界を作る。たとえ、あなたに嫌われようと。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

初耳なのですが…、本当ですか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:1,205

闇の悪役令嬢は愛されすぎる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:383pt お気に入り:3,541

ある男の後悔

恋愛 / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:932

厄災の王女の結婚~今さら戻って来いと言われましても~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:276pt お気に入り:3,378

夫が私に魅了魔法をかけていたらしい

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:13,271pt お気に入り:866

『まて』をやめました【完結】

恋愛 / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:3,693

私の推しは雑草男子

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:16

処理中です...