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油断大敵

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「今日の収穫も一つかぁ」

 思わず舌打ちしそうになったのを、寸前で抑え込む。

 魔獣を狩るのは大分慣れた。
 少々傷ついたところで、回復魔法と香魔法をかければいい。そう割りきったことで以前よりも格段に魔獣を狩るスピードは上がっていた。

 だというのに。
 魔獣の心臓を魔獣がなかなかおとさないのだ。

 このままで本当に間に合うんだろうか、という焦りが生まれていた。
 ──そんなとき。

 低い、うなり声が聞こえた。魔獣の声だ。ちらりと視線をそこに向けると、かなり大型の魔獣がそこに立っていた。

 チャンスかもしれない。

 このくらいの大型の魔獣が落とす魔獣の心臓は──本当に落とすかは別として──普通の心臓の三倍は価値がある。だから、もしここで狩って魔獣が心臓をおとしてくれれば、今日のノルマとしては十分だ。

 私は、魔獣に向き直った。

 ──そして。






「はぁっ、はあっ、……っは」

 これは、ちょっとばかりまずいかもしれないと、気を抜くと薄れそうな意識で思う。
 魔獣は倒せた。
 心臓も手に入れた。

 問題だったのは、魔獣が毒を持っていたことだ。それに気づかず、回復魔法を重ねがけした。

 結果、毒がまわった。


 鈍る思考では思うように魔法をかけられない。そんなに複雑な構造の毒ではないから、解毒魔法をかければすぐ治りそうなのに。

 とりあえず学園に戻って、医務室に行けば、なんとかなる、はず。

 ふらつく足どりで森から学園に戻ろうとしたけれど、学園まで目前のところで石に躓き転んでしまった。


「……っ、あ」
 


 立ち上がりたいのに、足に力が入らない。何度も何度も、立ち上がろうとして失敗した。

 目の前が、真っ黒になった。
 ──その、ときだった。

「──! ──、──!!!」

 誰かが何かいっている。けれど、何をいっているのか、頭が働かない。

 でも、なんだかとてもいい気分だ。

 そう思ったのを最後に意識が、途切れた。






「ん、……」
 とてもいい夢を見た気がする。
 そんなことを思いながら、目を開ける。

 今日も一日がんばらなくっちゃ。そう思いながら、体を起こそうとして、天井がいつもと違うことに気づいた。

 疑問に思って記憶をたどり、どうやらここが自室ではなく医務室だとわかる。

 そうか、私、毒で倒れたんだった。誰がここまで運んでくれたんだろう。

 ぱちぱちと、瞬きをすると。
「……目が覚めた?」

 黒い瞳と目があった。

 途端に、頬がひきつるのを感じる。
「どうやら、意識もはっきりしているようだね。そう、まずは、目が覚めてよかった。それから……」

 まずは。ということは、まだ私に用件があるということだ。今すぐここから逃げ出したい。
「助けてくださり、ありがとうございました。では!」

 慌てて起き上がろうとしたその体を、覆い被さるようにして縫い止められる。

「まぁ、待ってよ。話は、これからなんだから。…僕は、『次』はないっていったよね」
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