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逆行前
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それは、貴族が三年間を通うことが義務付けられている学園でのことだった。
私はいつものように、友人たちに笑いかけようとして、別の人物に話しかけてしまったのだ。慌てて、申し訳ございません、と謝ろうとしてその黒の瞳に吸い寄せられた。
「!」
──目があったのは、一瞬で。
その一瞬で、強く惹き付けられてしまった。
私は、その瞬間、頭のなかを運命という言葉が駆け巡ったけれど。それは、私だけのようだったみたいで、彼はついと目をそらすと、去っていってしまった。
「ソフィアったら、おっちょこちょいなんだから……ソフィア?」
友人はそんな私を笑ったけれど。私はその場から微動だに出来なかった。
それからの私は、彼──リッカルド様に夢中になった。彼は間違いなく、私にとっての運命の人だった。
でも。
──リッカルド様には、リッカルド様の運命の人がいた。
侯爵令嬢のメリア様。
二人はとても仲睦まじく、また、リッカルド様の他の方には向けられない柔らかな笑みに、私は確信した。
この二人が、私たちの代の【女神の使い】なのだと。
【女神の使い】。
それは、神託が下りた、一組の男女だ。
その男女は、必ず夫婦にならなければならない。夫婦になることで、女神の加護をこの国にもたらすのだ。
私たちの国の女神は、恋の女神だから。
誰よりも恋しあう二人に、そして、その国に、加護を与えてくださるのだった。
神託がおりるのは、学園の卒業式の日。
その卒業式の日に女神は告げた。
リッカルド様の名を。
リッカルド様は、微笑んで、メリア様の名前を呼ぼうとして、女神の声にかきけされた。
女神は告げた。
リッカルド様と夫婦となるべき、女の名前を。
「……え?」
──それは、メリア様ではなく。私の、名前、だった。
私はいつものように、友人たちに笑いかけようとして、別の人物に話しかけてしまったのだ。慌てて、申し訳ございません、と謝ろうとしてその黒の瞳に吸い寄せられた。
「!」
──目があったのは、一瞬で。
その一瞬で、強く惹き付けられてしまった。
私は、その瞬間、頭のなかを運命という言葉が駆け巡ったけれど。それは、私だけのようだったみたいで、彼はついと目をそらすと、去っていってしまった。
「ソフィアったら、おっちょこちょいなんだから……ソフィア?」
友人はそんな私を笑ったけれど。私はその場から微動だに出来なかった。
それからの私は、彼──リッカルド様に夢中になった。彼は間違いなく、私にとっての運命の人だった。
でも。
──リッカルド様には、リッカルド様の運命の人がいた。
侯爵令嬢のメリア様。
二人はとても仲睦まじく、また、リッカルド様の他の方には向けられない柔らかな笑みに、私は確信した。
この二人が、私たちの代の【女神の使い】なのだと。
【女神の使い】。
それは、神託が下りた、一組の男女だ。
その男女は、必ず夫婦にならなければならない。夫婦になることで、女神の加護をこの国にもたらすのだ。
私たちの国の女神は、恋の女神だから。
誰よりも恋しあう二人に、そして、その国に、加護を与えてくださるのだった。
神託がおりるのは、学園の卒業式の日。
その卒業式の日に女神は告げた。
リッカルド様の名を。
リッカルド様は、微笑んで、メリア様の名前を呼ぼうとして、女神の声にかきけされた。
女神は告げた。
リッカルド様と夫婦となるべき、女の名前を。
「……え?」
──それは、メリア様ではなく。私の、名前、だった。
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