聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理

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二度目の恋

63 初夜

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結婚式を終えると、私は浴槽に突っ込まれた。身体中をこれでもかと磨きあげられ、何だか妖しい香りをつけられ、髪を結い、薄いネグリジェを身にまとい、寝室にぽいっと放り出された。

 「……うん」
いや、結婚するってそういうことだとわかっているけれども。ファーストキスもたった今すんだばかりなわけで。早すぎる気がするけれど、この世界ではそろそろ成人なわけで、早すぎるわけではないのかもししれない。

 この寝室は、魔王の私室と私の私室に繋がるようにして出来ていた。もう結婚して、夫婦になったのだから、寝室を共にするのは当然だろう。それでも、でも。なかなか覚悟が決まらない。やっぱりちょっと怖いのだ。呻いていると、もう片方の扉が空いた。
 
 扉から出てきたのは、当然のことながら、魔王だった。魔王は私の姿を見ると、耳まで真っ赤にした。魔王につられて私まで、赤くなってしまう。

 しばらく二人してもじもじしていると、ふと魔王が呟いた。
「貴方の肌は白いから、証が目立つな」
魔王のいう証とは、結婚すると首に現れる黒い模様のことだろう。魔王に現れたのと同じ模様が私にも、現れているはずだ。

 「……貴方は本当に、私の妻になったのだな」
言葉とは裏腹に、魔王の声は心細げだった。
「はい。私は、ずっとオドウェル様の傍にいます」
魔王の手をとり、私の頬に当てる。そうすると、体温が混じりあって、安心できる気がした。思った通り、魔王の少し低めの体温は、私を安心させた。

 魔王を見上げる。深紅の瞳は、どこまでも深い。

 「ミカ、私は多くのものを貴方から奪った」
「私は、奪われたとは思っていません。私が、選びました」
そうだ。魔王から強要されたわけじゃない。この世界を、魔王を、私が、選んだ。そこだけは、勘違いしてもらったら困る。これは、私の選択なのだから。

 そういうと、魔王は
「貴方は、強い」
と苦笑した。私にしてみれば、魔王の方が、よっぽと強いと思うけれど。

 「触れても?」
頷くと、私の頬に当てていた手が、存在を確かめるように私の輪郭をなぞった。そして、そのまま抱き込まれる。

 目を閉じ、耳をすませば、どくどくと魔王の心臓の音が聞こえる。私と同じリズムを刻んでいる音が耳に心地良い。生きている音だ。──魔王も、私も、生きている。

 魔王が力を緩めたので、心臓の音に耳を傾けるのをやめて、魔王を見つめる。

 まるで、世界から私たち二人が切り取られたみたいに、静かだった。

 深紅の瞳には、私だけが映っている。そのことが、とても気分がよくて、いつの間にか、恐怖はどこかへ飛んでいってしまった。

 「怖いか?」
いいえ、と首を降ると、魔王のほうが慌てたように、嘘だ、と言われたが、本当に怖くない。

 ──だって、私は、貴方のことがすきだから。

 魔王が目を見開き、ごくりと息を飲んだ。

 「私も、貴方が好きだ。貴方を、愛している」

 そうだ。ここにいるのは、私の好きなひとと、私だけ。怖いものは、存在しない。

 そのことに気づくと、さっきまで怖いと思っていたことが馬鹿らしくなる。

 ゆっくりと目を閉じて、流れに身を任せる。もう少しも、怖いとは、思わなかった。
 
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