聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理

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二度目の召喚

57 返事

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魔王は、私にプロポーズをした後、顔を真っ赤にさせながら、去っていってしまった。対する私はといえば、魔王に差し出された、月下氷人を握りしめて、途方にくれていた。

「ミカ様」
サーラに呼び掛けられて、はっとする。そうか、人払いをしていなかったから、サーラもあのプロポーズを聞いていたんだよね。

 「……とりあえず、月下氷人をお生けしましょうか?」
「うん、お願い」

 私がこれは現実だろうか? と逃避しようとしても、汗で少し萎れてしまった月下氷人と、一気に上がった体温が逃避させてくれない。──これは、現実なんだ。

 お互いに好意を抱き、両想いであるとして、では、お付き合いをしよう、となるほど私の世界は近くなかった。だから、魔王は私に恋人という関係ではなく、結婚を願った。

 「どう、しよう」
結局、また魔王に私も好きだと伝えられなかった。魔王のことは、好きだ。すごく。結婚して欲しいと言われて、正直、飛び上がりそうなほど、嬉しい。


 でも。
 「お父さん、お母さん」
 お父さんやお母さん、それに友達たちのことは大切だ。


 ──けれど、その関係はこの世界でも作れる。魔王と結婚して夫婦になれば、私には魔王という家族ができる。いずれ、子供もできれば、もっと、家族は増える。
 友達だってそう。魔王と友達になったように、この世界でだって、友達は作れる。

 ようは、この世界と元の世界、私にとってどちらがより大切か。ということだった。

 いや、そもそも現状私が元の世界に帰る方法はないのだけれど。それならば、つべこべ悩まず、結婚したらいいのだろうか。ううん、それじゃ、駄目だ。魔王と結婚するのは、それしか選択肢が無かったからではなく、私が魔王のことが好きだからでないといけない。そうでないと、きっと、後悔する。    

 「サーラ」
「はい」
「サーラなら、こういうとき、どうする?」
私が尋ねるとサーラは少しだけ、悩んだあとに答えた。
「私なら、目を閉じたときに真っ先に思い浮かんだものを優先しますね」
 
 なるほど。
 
 目を閉じたとき、真っ先に思い浮かぶのは、誰だろう。

 心を落ち着かせて、目を閉じる。そのとき、思い浮かんだのは──。

 ■ □ ■

 一週間後。私は、魔王の執務室の前に立っていた。

 魔王は、返事はいつになっても構わないと言っていたが、結論がすでにでているのなら、早い方がいいだろう。

 緊張しながら、執務室へ入る。私の緊張した顔で、察したのか魔王は人払いをした。

 いう言葉は、もう決まっているのに、なかなか喉からでてこない。じんわりと手汗がでるのを感じながら、ぎゅっと手を握りしめる。

 「わっ、私は、」
「ゆっくりで、良い。ミカ、貴方の結論がどうであれ、私は最後まで聞くから」

 魔王が、ゆっくりと微笑んでくれたので、一度深呼吸をする。すると、さっきよりは、幾分か、楽になった気がした。

 「まずは、結婚のお申し出、ありがとうございます」

 よし、噛まずに言えたぞ。

 「お返事なのですが、」
 その続きをいう前に、一度目を閉じる。そして、最後の確認をする。本当に、私が後悔しないか。──うん。大丈夫だ。絶対に後悔しない。






 「──私でよろしければ、喜んで」

精一杯可愛く見えるように、微笑みながら言う。

 「……は?」
魔王は、ぱちぱちと瞬きをした。あれ? 聞こえなかっただろうか。

 「私で、よろしければ──」
「ほっ、本気なのか!?」
私がもう一度、言おうとすると魔王は慌てたように遮った。
「本当に、よく考えたのか!? 貴方のご両親や友人とは会えなくなるんだぞ!」
喜びよりも先にまず、私のことを考えてくれる魔王に、やはり私は間違ってなかったと思う。

 「はい、考えました」
この世界では、そろそろ成人だ。そのことも含めて、ちゃんと考えた。結婚すること。家族と離れること。

 恋一つのために、家族や友人と別れる私を、愚かという人はいると思う。でも、考えた上で、でた結論だ。

 いつの間にか、私のなかで魔王への気持ちはとても大きくなっていた。気づいたのが、つい最近だっただけで、ずっと私の中に根差していた気持ち。

 「オドウェル様、私と恋と愛を共に育んで頂けませんか?」

 まっすぐに未だにおろおろとしている魔王を見つめる。私がそう言うと、魔王は、暫く唸ったあと、観念したように頷いた。

 「貴方が本当にそれでいいのなら。もちろん」
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