聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理

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二度目の召喚

51 苦悩

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魔王はその後、ずっと挙動不審だった。けれど、理由を尋ねても答えてくれず、目線を逸らすだけだった。視線を感じて、顔をあげると、
 「オドウェル様?」
「なっ、何でもない」
と顔を背けられてしまった。

 本当にどうしたんだろう? と思うけれども、何でもないといわれてしまっては、理由も聞けない。

 魔王の挙動不審は、仕事が終わるまで続いた。


 ベッドに転がり、とりあえず、ガレンの隣に並ぶ自分を想像してみる。
「に、似合わない……」
姿がどうとかじゃなくて、ガレンの隣に私が相応しいとは思えなかった。いや、でも、ガレンは、私がいいと言ってくれたんだ。似合う似合わないじゃなくて、ちゃんと考えよう。結婚すること。ガレンと夫婦になること。ガレンと一緒にいることは、苦にならない。一緒にはいられると思う。けれど、そこに愛は、生まれるのだろうか。私は、ガレンと愛を育んでいける?

 結局、恋や愛って何だろう。恋は以前、私がガレンに抱いていた気持ちだ。
 目が合うと、ふわふわとした気持ちになって、名前が呼ばれただけで、胸が熱くなった。

 けれど、結婚はそれだけではできないという。人生経験も恋愛経験も乏しい私では、よくわからない。

 ごろごろ転がったが、いい案は浮かばない。眠気もいっこうにやってこない。

 「どうしたら、いいのかなぁ」

 ■ □ ■
 

 ミカと別れ、ため息をつく。ミカは終始不思議そうな目を私に向けていた。

 「失礼します。兄上、昨日の──、どうしたのです? 兄上」
項垂れているとユーリンが、執務室へ入ってきた。
「ユーリン、私はどうすればいい……」
ユーリンに私がミカに恋をしているかもしれないことを話す。

 「かもしれない、ではなく、しているでしょう」
ユーリンは断言した後、呆れたようにため息をついた。
「なぜ、断言できる?」
「だって、兄上の態度を見れば明らかですから。巫女殿以上に、巫女という役目をのけて考えても兄上が気にかける女性はいないでしょう」
確かにそうかもしれない。ミカと目が合うと、動悸がするのも、笑うともっと笑ってほしいと思うのも、恋をしていたからだったのか。私が唸ると、ユーリンはまたため息をつく。

 「だから、言ったでしょう。好きならば、泣いてすがって引き留めるべきだと。幸い、巫女殿はこちらの世界へ再び現れましたが、引き留めないともう二度と会えなくなるかもしれませんよ」
「ミカを引き留めることなど、できない。彼女には、大切な家族がいる」

 「それならば、兄上が巫女殿の世界へ渡りますか? クリスタリアのことは俺に任せて」
ユーリンは、真っ直ぐに私を見ていた。
「え……?」
私が、ミカの世界へ渡る?
「そういった、選択肢もあるということです。けれど、兄上はそのような選択はしないでしょうね。言ってみただけです」
 ──ユーリンのいう通りだ。私は恋のために、クリスタリアを捨てることはできない。

 「そもそも、巫女殿の気持ち次第ですが」
そうだ。私は、別にミカに想いを伝えて、受け取ってもらえたわけではない。そもそも、伝えることはミカに迷惑にならないだろうか。
「迷惑になる、ならないではなく、兄上が伝えたいかどうかでは」

 伝えたいか、どうかか。伝えて万が一、ミカが私の想いを受け止めてくれたなら、それはとても嬉しいことだと思う。けれど、その先は──? そして、伝えて、受け止められなかったら、その時は今の友という関係が壊れてしまうのではないだろうか。それは、嫌だ。

 「どうすれば、いいのだろう」
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