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二度目の生
25 月下氷人
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巫女って一体何なんだろう。もし、巫女が厄災を招くなら、私はこのままクリスタリアにいてもいいのだろうか。でも、魔王は一国の主だ。そんな危険人物をのうのうと野放しにするとは思えない。やっぱり、巫女は幸運をもたらすのでは? でも、私がクリスタリアに来て何か良いことが起きたとは思えない。そんなことを考えていて、結局昨日も一睡もできなかった。
目の下の隈を何とか誤魔化し、魔王の執務室へ向かい、書類整理をする。その間も、ぐるぐると頭の中でガレンに言われた言葉が回っていて、なかなか集中できない。
「巫女」
呼び掛けられてはっとする。いつの間にか手が止まっていた。
「申し訳──」
「休憩にしよう」
「え?」
てっきり咎められると思っていたので、魔王の意外な提案に驚く。けれど、このまま仕事を続けても、効率がいいとは思えなかったので、頷く。
「見せたいものがある」
という魔王の言葉に従い、魔王についていくと、桃色の花が咲いていた。その花の名前は、月下氷人というらしい。仲人の名にふさわしく、この花の前で想いを告げると叶うという言い伝えがあるらしい。
「綺麗ですね」
「ああ。……巫女は私の趣味を笑わなかっただろう。だから、咲いたら一番に見せたかった」
「嬉しいです」
この花も魔王が育てたらしい。それにしても、恋煩いといい月下氷人といい魔王はロマンチックな名前の花を育てているんだな。そう思っていると、魔王はぽつりといった。
「私が恋や愛にまつわる花を育てているのは、憧れからなのかもしれない」
そういえば、以前魔王は恋をしたことがないといっていた。もしかしたら、それが魔王にとってコンプレックスなのかもしれない。
「だが、巫女」
「はい」
なんだろう?
「私に恋や愛はわからないが、貴方がクリスタリアに来てから、毎日が楽しい。花を育てるときに、貴方の顔が浮かぶようになった。この花を見せたら貴方は、喜ぶだろうか。毎日そんなことばかり考えている」
「え?」
普段クールな魔王がそんな嬉しいことを考えてくれているとは思いもよらなかった。
久しぶりに魔王の深紅の瞳と目が合う。
「巫女、貴方は自分に幸運をもたらす力はないと言ったな。だが、私にとっては貴方こそ私に訪れた幸運だ。よければ、これからも私の友人として傍にいてはくれないだろうか?」
そういって、魔王は、月下氷人を一輪差し出した。
「……私は、ここにいてもいいのですか?」
私がいることで厄災を招くとしても、それでも。クリスタリアにいてもいいの?
「貴方がいてくれないと、私が困る」
そういって、魔王は微笑んだ。泣きそうになりながら、月下氷人を受けとる。
「……っ、私で良いのなら、喜んで」
巫女が何だとしても、魔王の傍にいたい。優しくて不器用な友人の傍に。
「ありがとう」
その笑みが、あまりに優しかったから、少しだけ、泣いてしまった。
今日はここまでにしよう、という魔王の言葉に従い、部屋に戻る。サーラに新たに花瓶を用意してもらい、月下氷人を部屋に飾る。
「その花は、結婚を申し込むときにも使われるのですよ」
とサーラが解説してくれた。魔王は友人として渡してくれたとわかっているのに、真っ赤になってしまう。結婚だなんて、遠い話のはずなのに。
「あらあらまあまあ」
「ち、違うってば、サーラ! ねぇ、サーラってば!」
──月下氷人が、甘く香った。
目の下の隈を何とか誤魔化し、魔王の執務室へ向かい、書類整理をする。その間も、ぐるぐると頭の中でガレンに言われた言葉が回っていて、なかなか集中できない。
「巫女」
呼び掛けられてはっとする。いつの間にか手が止まっていた。
「申し訳──」
「休憩にしよう」
「え?」
てっきり咎められると思っていたので、魔王の意外な提案に驚く。けれど、このまま仕事を続けても、効率がいいとは思えなかったので、頷く。
「見せたいものがある」
という魔王の言葉に従い、魔王についていくと、桃色の花が咲いていた。その花の名前は、月下氷人というらしい。仲人の名にふさわしく、この花の前で想いを告げると叶うという言い伝えがあるらしい。
「綺麗ですね」
「ああ。……巫女は私の趣味を笑わなかっただろう。だから、咲いたら一番に見せたかった」
「嬉しいです」
この花も魔王が育てたらしい。それにしても、恋煩いといい月下氷人といい魔王はロマンチックな名前の花を育てているんだな。そう思っていると、魔王はぽつりといった。
「私が恋や愛にまつわる花を育てているのは、憧れからなのかもしれない」
そういえば、以前魔王は恋をしたことがないといっていた。もしかしたら、それが魔王にとってコンプレックスなのかもしれない。
「だが、巫女」
「はい」
なんだろう?
「私に恋や愛はわからないが、貴方がクリスタリアに来てから、毎日が楽しい。花を育てるときに、貴方の顔が浮かぶようになった。この花を見せたら貴方は、喜ぶだろうか。毎日そんなことばかり考えている」
「え?」
普段クールな魔王がそんな嬉しいことを考えてくれているとは思いもよらなかった。
久しぶりに魔王の深紅の瞳と目が合う。
「巫女、貴方は自分に幸運をもたらす力はないと言ったな。だが、私にとっては貴方こそ私に訪れた幸運だ。よければ、これからも私の友人として傍にいてはくれないだろうか?」
そういって、魔王は、月下氷人を一輪差し出した。
「……私は、ここにいてもいいのですか?」
私がいることで厄災を招くとしても、それでも。クリスタリアにいてもいいの?
「貴方がいてくれないと、私が困る」
そういって、魔王は微笑んだ。泣きそうになりながら、月下氷人を受けとる。
「……っ、私で良いのなら、喜んで」
巫女が何だとしても、魔王の傍にいたい。優しくて不器用な友人の傍に。
「ありがとう」
その笑みが、あまりに優しかったから、少しだけ、泣いてしまった。
今日はここまでにしよう、という魔王の言葉に従い、部屋に戻る。サーラに新たに花瓶を用意してもらい、月下氷人を部屋に飾る。
「その花は、結婚を申し込むときにも使われるのですよ」
とサーラが解説してくれた。魔王は友人として渡してくれたとわかっているのに、真っ赤になってしまう。結婚だなんて、遠い話のはずなのに。
「あらあらまあまあ」
「ち、違うってば、サーラ! ねぇ、サーラってば!」
──月下氷人が、甘く香った。
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