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二度目の生
12 夢と雨
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──誰かが、子守唄を歌っている。優しくて、暖かい声だ。私が体を起こすと、子守唄はやみ、代わりに、柔らかな笑みが向けられる。
思い出した。前線につくまで、まだ距離があるからと、今日はここで野営をすることになったのだ。いずれたつことになる、戦場が怖くて眠れないという、子供のような言葉のためにガレンは眠るまで、そばにいてくれた。
「失礼、おこしてしまいましたか?」
その言葉に首を降り、ガレンの横に座る。もっととねだると、わかりました、といって、再び子守唄が紡がれる。
その音に耳を傾けていると、再び眠くなってきた。
「もう、眠ってしまうのですか?」
優しく髪をすかれ、更に眠くなっていく。意識が落ちる前に聞いたのは、悲しい声だった。
「美香、あなたはどうして、」
──どうして、聖女じゃ、ないのですか
「──っ!!!」
がばり、と飛び起きる。息が荒い。窓を確認すると、外は雨が降っていた。どうも、雨の日は夢見が悪い。
ため息をつきながら、髪をかきあげる。
あの日は、そんなこと言われなかったはずだ。だって、まだ本物の聖女は現れてなかったのだから。あの言葉を言われたのはいつだったか。
それは、何故か泣きそうな声だった。
「美香、何もできない貴女はどうして、聖女じゃない、のですか」
そんな理由、私の方が聞きたかった。それなら、何故貴方たちは、私を喚んだの。
首を降る。そういう考え方はやめようって決めたはずだ。せっかく、二度目の生を手にいれたんだから。
再び眠る気にもなれず、布で耳と髪を覆って廊下に出る。
「……?」
何か、音が聞こえる。音をたどっていくと、魔王が窓から空を見上げながら、子守唄を歌っていた。ガレンが歌っていたのと同じ歌だ。声をかけようとして、躊躇う。
魔王はどこか遠くを見るような目をしていた。その瞳に見いられていると、人気のない廊下は少し寒くて、思わずくしゃみをしてしまった。
魔王の歌がやみ、こちらに振り向く。
「……巫女?」
私は、気まずく思いながら、頷くと、魔王はこっちにこいとジェスチャーをした。それに従い、魔王の元へいく。
「どうした? こんな夜更けに。風邪を引く」
そういって魔王は着ていた上着を脱ぐと、私にかけてくれた。
「ありがとうございます。……何だか、眠れなくて。雨は少し苦手なんです」
聖女が現れたのは、雨の日だった。それ以来、雨は苦手だ。
「私もだ」
魔王は頷くと微笑んだ。
「一緒だな」
その言い方がひどく優しくて、思わず照れてしまう。
「今日は『記憶の雨』の日だから、それもあるだろうが」
「『記憶の雨』?」
初めて聞いた言葉だ。
「幸せな記憶と悲しい記憶を同時に呼び覚ます雨だ」
そんな特殊な雨があるのか。知らなかった。でも、ここは異世界だから、何があっても不思議ではないのかもしれない。
魔王にも悲しい記憶があったのだろうか? 疑問が顔に出ていたのか、魔王は苦笑した。
「雨の日に、両親を亡くした」
なんとリアクションをすればいいのか、わからずに戸惑う。私は、自分が死にかけたことはあるが、肉親を亡くしたことはない。ただ、それはとても悲しいことだろうと、想像することしかできない。
「……ああ、すまない、気を使わせた。もう、十年も昔のことだ。どうも、雨の日は感傷的になりすぎる」
魔王の両親はどんな人だったんだろう。そう考えているうちに、また、くしゃみが出た。
「……ほら、風邪を引かないうちに、部屋へ戻れ。それとも、眠れないなら、子守唄でも歌うか?」
先程の優しい歌声を思い出して、思わず頷いてしまう。
冗談だったのか魔王はあっけにとられた顔をしたが、結局歌ってくれた。
低くて、優しい歌声が、静かに耳に響く。
歌が終わる頃には、もう、雨もやんでいた。
「ほら、今度こそ、部屋へ戻れ」
魔王にお礼をいって上着を返し、言われた通り、部屋に帰る。
──今度は、ぐっすり眠れそうだった。
思い出した。前線につくまで、まだ距離があるからと、今日はここで野営をすることになったのだ。いずれたつことになる、戦場が怖くて眠れないという、子供のような言葉のためにガレンは眠るまで、そばにいてくれた。
「失礼、おこしてしまいましたか?」
その言葉に首を降り、ガレンの横に座る。もっととねだると、わかりました、といって、再び子守唄が紡がれる。
その音に耳を傾けていると、再び眠くなってきた。
「もう、眠ってしまうのですか?」
優しく髪をすかれ、更に眠くなっていく。意識が落ちる前に聞いたのは、悲しい声だった。
「美香、あなたはどうして、」
──どうして、聖女じゃ、ないのですか
「──っ!!!」
がばり、と飛び起きる。息が荒い。窓を確認すると、外は雨が降っていた。どうも、雨の日は夢見が悪い。
ため息をつきながら、髪をかきあげる。
あの日は、そんなこと言われなかったはずだ。だって、まだ本物の聖女は現れてなかったのだから。あの言葉を言われたのはいつだったか。
それは、何故か泣きそうな声だった。
「美香、何もできない貴女はどうして、聖女じゃない、のですか」
そんな理由、私の方が聞きたかった。それなら、何故貴方たちは、私を喚んだの。
首を降る。そういう考え方はやめようって決めたはずだ。せっかく、二度目の生を手にいれたんだから。
再び眠る気にもなれず、布で耳と髪を覆って廊下に出る。
「……?」
何か、音が聞こえる。音をたどっていくと、魔王が窓から空を見上げながら、子守唄を歌っていた。ガレンが歌っていたのと同じ歌だ。声をかけようとして、躊躇う。
魔王はどこか遠くを見るような目をしていた。その瞳に見いられていると、人気のない廊下は少し寒くて、思わずくしゃみをしてしまった。
魔王の歌がやみ、こちらに振り向く。
「……巫女?」
私は、気まずく思いながら、頷くと、魔王はこっちにこいとジェスチャーをした。それに従い、魔王の元へいく。
「どうした? こんな夜更けに。風邪を引く」
そういって魔王は着ていた上着を脱ぐと、私にかけてくれた。
「ありがとうございます。……何だか、眠れなくて。雨は少し苦手なんです」
聖女が現れたのは、雨の日だった。それ以来、雨は苦手だ。
「私もだ」
魔王は頷くと微笑んだ。
「一緒だな」
その言い方がひどく優しくて、思わず照れてしまう。
「今日は『記憶の雨』の日だから、それもあるだろうが」
「『記憶の雨』?」
初めて聞いた言葉だ。
「幸せな記憶と悲しい記憶を同時に呼び覚ます雨だ」
そんな特殊な雨があるのか。知らなかった。でも、ここは異世界だから、何があっても不思議ではないのかもしれない。
魔王にも悲しい記憶があったのだろうか? 疑問が顔に出ていたのか、魔王は苦笑した。
「雨の日に、両親を亡くした」
なんとリアクションをすればいいのか、わからずに戸惑う。私は、自分が死にかけたことはあるが、肉親を亡くしたことはない。ただ、それはとても悲しいことだろうと、想像することしかできない。
「……ああ、すまない、気を使わせた。もう、十年も昔のことだ。どうも、雨の日は感傷的になりすぎる」
魔王の両親はどんな人だったんだろう。そう考えているうちに、また、くしゃみが出た。
「……ほら、風邪を引かないうちに、部屋へ戻れ。それとも、眠れないなら、子守唄でも歌うか?」
先程の優しい歌声を思い出して、思わず頷いてしまう。
冗談だったのか魔王はあっけにとられた顔をしたが、結局歌ってくれた。
低くて、優しい歌声が、静かに耳に響く。
歌が終わる頃には、もう、雨もやんでいた。
「ほら、今度こそ、部屋へ戻れ」
魔王にお礼をいって上着を返し、言われた通り、部屋に帰る。
──今度は、ぐっすり眠れそうだった。
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