聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理

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二度目の生

9 魔王との日々

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 その後、魔王はよく私の部屋を訪ねてきた。

 戦争中なのに、こんなに頻繁に私の部屋に来ていいのかと思ったが、魔王曰く、戦争は戦争が得意な者に任せているから大丈夫、らしい。

 「巫女、貴方の名前はどのような字を書くのだ?」
「字……ですか?」
ガレンに名前の由来を尋ねられたことはあったが、字を尋ねられるのは初めてだった。

「話す言葉は通じるが、貴方と私の国では書くことばが違うだろう」
そうなのだ、何故か話す言葉は通じるが、私はこの国の文字が読めない。ひらがなと漢字ではなく、何に近いかと言うと、楔型文字のような文字なのだ。
「私のみか、と言う字は、このようにかくのですよ」

 私が漢字で美香とかくと、魔王は驚いた顔をした。
 「この国とは全く違うな。そもそも、ミカ、という名前が珍しいが」
そして、横におそらくこの世界の言葉で美香とかく。

 へえ、私の字ってこういう風にかくんだ。一年もこの世界にいたのに全く知らなかった。

 私が感心していると、魔王は横にもうひとつ言葉を書いた。
「これは?」
「オドウェル……、私の名だ。貴方の国の言葉ではどうかく?」

 私はその横に、オドウェルとカタカナで書いた。魔王はまた驚く。
 「先程の貴方の字とは、何だか違うように見える」

 私は、その言葉に調子にのって、漢字、ひらがな、カタカナの説明をした。魔王は話をすると、ちゃんとリアクションをしてくれるので、話していてとてもおもしろい。──相変わらず、目線は合わせてくれないけれど。

 「貴方の国はおもしろいな、三種類の文字を使い分けるのか。そんなにあったら覚えるのが大変だろう」
使うのが当たり前だったから、考えたことはなかったけれど、確かにそうかもしれない。一種類の文字の方が簡単……と、思いかけて英語を思い出した。英語はアルファベットだけだが、私はすごく苦手だった。この世界の文字は、文法は日本と同じようなので、それだけが救いだけど。

 ──そうだ!

 「陛下、お願いがあるのですが……」
「なんだ?」
「私、この世界の文字を学びたいのです」
することがないなら勉強すればいい。以前の私なら発狂しそうな言葉だが、それほど私は暇だった。それに、一年もいたのに、自分の名前も書けないって、とても寂しいことかもしれない。まるで、この世界に馴染もうとしてないみたいで。もし、もっと馴染む努力をしていたなら、何か変わっただろうか。

 「わかった、教師と本を手配しよう」
「ありがとうございます」
──ひとまず、やることが見つかった。
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