聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理

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二度目の生

5 魔物の国へ

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「魔物……!?」
私がそういうと、魔物はゆっくりと頷いた。
 深紅の瞳と目が合う。
「……俺に喰われたくなかったら、早く立ち去れ人間」
そう言われて思い出した。この森は、魔物の国と人間の国との国境になっているのだ。

 でも、この森を越えると深い谷があるため、人間は容易にはこの国境を超えられない。魔物は、人間よりも高い身体能力があるから、それを越えられるみたいだけれども。


 魔物と人間はほぼ同じ器官を持つ。周りの大人たちは、私にも魔物への憎しみを植え付けようと、様々なことをいったが、私は魔物は人間を食べないことを知っている。それに、この魔物は私を今助けてくれた。

 ──信頼できるかもしれない。

 
 「私を貴方たちの国に連れていってくれませんか」

 本当は、クレアの実で髪を染めたあと、城下町へ行き、隣国へいこうと思っていた。でも、もしかしたら、魔物の国の方が私は自由に生きられるかもしれない。

「!? 貴様何を馬鹿なことを言っている! 誰が人間なんかを我が国に入れるか!」

「利用価値はあると思います」
そういって、私も頭を覆っていた布をはずす。


 「黒髪……!? まさか、聖女か!」
「いいえ。私は先ほど見ての通り、髪が黒いだけで、何の力も持ちません。けれど、この髪には利用価値がある」
本物の聖女ではないが、『聖女もどき』としてなら、利用価値があるはずだ。

 私がそういうと、男は、急に男はぶつぶつと呟きだした。
「俺たちを滅ぼす力を持たない黒髪の女……。まさか、巫女……、いや、巫女殿」

 「あの……」
巫女とは何だろう。聖女の次は、巫女に祭り上げられてしまうのだろうか? いや、でも、それなら、魔物の国に連れていってもらったあとに逃げればいい。とにかく、この国から逃げ出すことが先決だ。

 「失礼した。巫女殿が、降臨なさっているとは存じ上げなかった。貴方を我が国へ喜んで迎え入れましょう」
 
 そういって、私に手を差し出した。

 
 その手をとると、急に突風が吹き、目を瞑る。
 次に、目を開けたとき、そこは森のなかではなく、豪華なお城の中だった。

 「ここは……?」
「転移魔法で移動しました」

 転移魔法はかなり高度な技術を必要とするため、世界でも数人しか使えないはずだ。この男は、ただ者ではないのかもしれない。


 ──それよりも、大切なことを忘れていた。自己紹介だ。
「私の名前は美香といいます。貴方のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「我が国──クリスタリア国が、王弟ユーリンと申します。心より、貴方を歓迎する、巫女殿」

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