聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理

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二度目の生

2 巻き戻る、時

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ギロチンの刃が落とされる。

「…………?」

 痛みを、感じない。
 そのことを疑問に思いながら、瞼を開く。
「ああ、聖女様……!」
瞼を開くと、かつて私の侍女として仕えていたマリーが心配そうな顔で、私を覗き込んでいた。

「お気づきですか?聖女様。召喚の儀の後、聖女様は倒れられたのです」
「……召喚の儀? 何をいっているの」
召喚の儀ではなく、行われていたのは私の処刑のはずだ。そもそもマリーはもう、私の侍女ではない。『聖女』の侍女になったはずだ。

 「まだお目覚めになられたばかりで、混乱なさっているのですね。聖女様は、先ほど召喚の儀を終えられたばかりです」

 横たわったまま視線を動かすと、処刑台の上ではなく、そこはベットの上だった。
 拘束具もつけられていない。

 ……どういうこと?
「今日の、日付は?」
震える声で、マリーに尋ねる。
「日付、にございますか。今日は――」

 マリーの答えた、日付は、まぎれもなく、私が、この異世界に召喚された日のものだった。

 「時間が、戻ってる……?」
そんなこと、ありえるのだろうか。でも。私の首は未だ繋がったままだ。
「聖女様?」
「ううん、何でもないわ。本当に、少し混乱していたみたい」

 もし、これが罠ではなく、事実だとしたら、私は、やり直す機会を得たのかもしれない。
 マリーにゆっくりと微笑み返す。――記憶通りだと、この後は、私の護衛となるガレンとの顔合わせのはずだ。


 ■ □ ■

 顔合わせはつつがなく行われた。

 ――ガレン。私が恋をして、そして、私を見捨てた男だ。
 私は、顔合わせでガレン一目ぼれをしたのだ。それ以来、ずっと、ガレンのことが好きだった。処刑されそうになってからも、それは変わっていない。

 ガレン。どうして。何もできなくても、貴方はそこに存在するだけで良いのです、と眩しそうにいってくれた貴方がどうして、私を、否定、したの。

 頭の中では恨み言がぐるぐると回っていたが、口からでたのは、普通の言葉だった。

「初めまして。美香といいます。よろしくお願いします」 
「……初めまして。美香、私は、この度貴方の護衛を任されたガレンと申します」

 ――? ガレンは、今私の名前を美香と呼んだ。確か、この国の人にとって、美香は発音しづらいらしく、初対面の人だと、美香ではなく、マイカのような、音の響きになるのに。

 気のせい、だろうか。……きっと、気のせいだろう。

 握手を求められ、それに応える。手袋越しでもガレンの手は相変わらず、暖かかった。
 そのことに、少しだけ泣きそうになりながら、手を握る。

 ――このとき、ガレンが私を見つめていたことに、私は、気づかなかった。

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