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結論
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「……私でよければ、喜んで」
ルーカス殿下の手をとり、ホールの中央へ。合わせた手から、熱が伝わり不思議な気分になる。以前の生では、何度も踊った、何度も握った手。
慣れ親しんだ、エスコートでステップを踏む。
すると、ルーカス殿下は、ぽつりとこぼした。
「貴女はずいぶん楽しそうに踊るのだな」
「そうでしょうか?」
私が、聞くとああ、とルーカス殿下は頷く。ルーカス殿下の呼吸を把握しているため、先程のフレッドと踊ったときよりも、踊りやすい。
それに、以前の生から、ルーカス殿下と踊るのは好きだった。ルーカス殿下の澄みきった青の瞳をその瞬間だけは、独占できるから。
結局、今現在、ルーカス殿下に婚約者はいない。けれど、近いうちに決まるだろう。そしたら、きっと、もう、こうしてルーカス殿下の瞳に映ることは、二度とないのだ。
そうかんがえると、胸が痛む。けれど、婚約者になる可能性を潰したのは、私自身だ。後悔するわけにはいかない。
「それで、この前の件だが……」
返事は決まっただろうか? と尋ねられる。マリウス殿下との婚約の打診についてだろう。
「……はい」
真剣にしっかりと、考えた。その上で出した結論がある。
私が頷いたところで、丁度曲が終わった。
「では、返事を聞かせてもらえるだろうか?」
人気のないテラスにエスコートされる。夜風がダンスで熱くなった頬を冷ましてくれて、心地好い。
「──私には勿体ないお話です」
「……それが、貴女の答えか」
「はい」
マリウス殿下との婚約をどうすべきだろうか。ずっと、考えていた。
もし、マリウス殿下と婚約したらどうなるだろう。少なくとも魔獣科から転科することになるんじゃないだろうか。最悪、学園をやめることにもなるだろう。
それでは、私の一番欲しかったもの。何があっても絶対に信じてくれるひとが手に入らない。グレイさんは、そうなってくれるといってくれたけれども、私たちはまだそんなに長いときを、共に過ごしたわけではない。
きっと、ルーカス殿下暗殺未遂なんていう疑いをかけられたら、その絆はたち消えてしまうだろう。
だったら、まだ、私はこの学園に残らなければならない。
だから、マリウス殿下の婚約者には、なれない。
「わかった。貴女の意志を優先する。だが、本当にいいのか? 身内贔屓と笑われるだろうが、マリウスはきっと貴女を大切にする」
ルーカス殿下が、じっと私を見つめた。そうだろうな、と思う。マリウス殿下は、私を大切にして下さるだろう。そして、私は幸せになれるのかもしれない。
でも、私の一番ほしいものは、幸せじゃない。
「私は、魔法騎士になりたいのです」
そして、その結果として絶対に私を信じてくれるひとが欲しい。
「……そうか、わかった。私は、貴女のことをちっとも知らなかったのだな」
ルーカス殿下は、なぜか苦く笑って、私をまたパーティーへとエスコートしたあと、人混みのなかに消えていった。
「アリサ、どうだった?」
「……グレイさん」
よっ、と声をかけてきたグレイさんにほっとして、思考を切り替える。
最後のルーカス殿下の声が、まるで、私が死ぬ瞬間、名前を呼んでくれた誰かの声と似ていた、なんて、気のせいだろう。
──その後は、グレイさんと談笑しながら、楽しい時間を過ごした。
ルーカス殿下の手をとり、ホールの中央へ。合わせた手から、熱が伝わり不思議な気分になる。以前の生では、何度も踊った、何度も握った手。
慣れ親しんだ、エスコートでステップを踏む。
すると、ルーカス殿下は、ぽつりとこぼした。
「貴女はずいぶん楽しそうに踊るのだな」
「そうでしょうか?」
私が、聞くとああ、とルーカス殿下は頷く。ルーカス殿下の呼吸を把握しているため、先程のフレッドと踊ったときよりも、踊りやすい。
それに、以前の生から、ルーカス殿下と踊るのは好きだった。ルーカス殿下の澄みきった青の瞳をその瞬間だけは、独占できるから。
結局、今現在、ルーカス殿下に婚約者はいない。けれど、近いうちに決まるだろう。そしたら、きっと、もう、こうしてルーカス殿下の瞳に映ることは、二度とないのだ。
そうかんがえると、胸が痛む。けれど、婚約者になる可能性を潰したのは、私自身だ。後悔するわけにはいかない。
「それで、この前の件だが……」
返事は決まっただろうか? と尋ねられる。マリウス殿下との婚約の打診についてだろう。
「……はい」
真剣にしっかりと、考えた。その上で出した結論がある。
私が頷いたところで、丁度曲が終わった。
「では、返事を聞かせてもらえるだろうか?」
人気のないテラスにエスコートされる。夜風がダンスで熱くなった頬を冷ましてくれて、心地好い。
「──私には勿体ないお話です」
「……それが、貴女の答えか」
「はい」
マリウス殿下との婚約をどうすべきだろうか。ずっと、考えていた。
もし、マリウス殿下と婚約したらどうなるだろう。少なくとも魔獣科から転科することになるんじゃないだろうか。最悪、学園をやめることにもなるだろう。
それでは、私の一番欲しかったもの。何があっても絶対に信じてくれるひとが手に入らない。グレイさんは、そうなってくれるといってくれたけれども、私たちはまだそんなに長いときを、共に過ごしたわけではない。
きっと、ルーカス殿下暗殺未遂なんていう疑いをかけられたら、その絆はたち消えてしまうだろう。
だったら、まだ、私はこの学園に残らなければならない。
だから、マリウス殿下の婚約者には、なれない。
「わかった。貴女の意志を優先する。だが、本当にいいのか? 身内贔屓と笑われるだろうが、マリウスはきっと貴女を大切にする」
ルーカス殿下が、じっと私を見つめた。そうだろうな、と思う。マリウス殿下は、私を大切にして下さるだろう。そして、私は幸せになれるのかもしれない。
でも、私の一番ほしいものは、幸せじゃない。
「私は、魔法騎士になりたいのです」
そして、その結果として絶対に私を信じてくれるひとが欲しい。
「……そうか、わかった。私は、貴女のことをちっとも知らなかったのだな」
ルーカス殿下は、なぜか苦く笑って、私をまたパーティーへとエスコートしたあと、人混みのなかに消えていった。
「アリサ、どうだった?」
「……グレイさん」
よっ、と声をかけてきたグレイさんにほっとして、思考を切り替える。
最後のルーカス殿下の声が、まるで、私が死ぬ瞬間、名前を呼んでくれた誰かの声と似ていた、なんて、気のせいだろう。
──その後は、グレイさんと談笑しながら、楽しい時間を過ごした。
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