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妖の花嫁

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「……そうだね」
 旦那様は頷くと、手を叩いた。
「玲凛」
 音もなく、黒い羽根――といっても旦那様の物よりはずいぶんと小さい――のついた少女が現れた。
「美冬の着替えを頼んだよ」
「御意」
 旦那様は立ち上がるついでに、私も立ち上がらせてくれた。
「美冬の身の回りのことは、この玲凛に任せてある。何か不便があれば、彼女が基本何とかしてくれる。我が花嫁様の寝顔も拝めたことだし、俺は仕事に戻るけれど……」
 そう言って、旦那様は笑った。
「この城内だったら、美冬は好きに過ごしていい。だけど――」
 ――城外には、出ないで欲しい。
 旦那様派付け足した。
「美冬は、俺の花嫁だ。けれど、身の程知らずがいないとも限らないからね。念のため」
 そう言って旦那様は、私の右手の甲に口づけを一つ落とすと、去ってしまった。

 旦那様がいなくなってから、改めて玲凛、という少女に向き直る。
 玲凛は、髪を二つに分けて結い上げていた。瞳は、一瞬黒だと思ったけれど、よく見ると藍色だった。幼いながらも整っている顔立ちに思わず、見惚れる。

 妖閻の界の妖たちは、みんなお顔が整っているのかしら。

 そんなことを想いながら、微笑みかける。
「よろしくお願いいたします。玲凛さん」
「花嫁様、どうか、玲凛と。それから敬語は不要にございます」
 そう言って礼をした玲凛は、すぐにお召し物をお持ちいたしますね、と言って、一度私の前から姿を消した。

「……」
 一度もにこりともしてくれなかったのは、元々あまり感情を出さない子なのかもしれない。まぁ、私は子を産みさえすれば食べられる身だから、あまり仲良くするのも却って別れがつらくなるだけかもしれない。
そう考えることにして、ぼんやりと部屋を見回す。朱色、そして黒を基調としたこの部屋は、恐らく、寝室……だと思う。

「困ったわ……」
 私は、結婚したらすぐに喰らわれると思っていた。お母様に、食べられないかも、なんて冗談めかして言っていたけれど、まさか、本当に猶予があるなんて。
 私は、もう死ぬつもりでここに来た。
 けれど。その猶予の期間があるらしい。でも、その猶予期間をどう過ごせばいいのか、途方に暮れてしまう。

「花嫁様」
 そんなことを考えていると、玲凛がやってきた。
「ありがとうござ……ありがとう、玲凛」
 玲凛は、ずらりとたくさんの着物を持ってきた。
「どれになさいますか?」
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