【短編】転生悪役令嬢は、負けヒーローを勝たせたい!

夕立悠理

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「……はぁ」
 最近のわたくし、おかしい。

 そのせいか、大好き、と言った後のイグニス殿下の様子がおかしかったわ。

 以前は、純粋にイグニス殿下を推すことができたのに。
 最近は、イグニス殿下に対して、邪な気持ちを抱いてしまうことがあります。

 原作には書いてなかった、イグニス殿下の魅力……たとえば、果物が好きで、辛い食べ物は苦手なところ。ピアノだけじゃなくて、バイオリンも得意なところ。お化けが苦手なところ。拗ねると唇を尖らせるところ。子供に読み聞かせをするのが得意なところ。……ほかにもたくさん、ひとつ、ひとつ、知るたびに、わたくしの中の邪な気持ちは大きくなっていきます。

 もし、もしも。

 イグニス殿下が、わたくしに好意を向けてくださったら……。

 そんな期待を抱いてしまう自分が烏滸がましくて、醜くて嫌でたまりません。

 だって、イグニス様を幸せにするには、ヒロインと結ばれるのが一番いいはずで。

 わたくしとくっついても、イグニス殿下が、幸せになれる保証なんてないのに。

「……はぁ」
「最近、ため息ばかりですね、メルシャン嬢」
「!?」

 イグニス殿下と別れ、王城の廊下を歩いていると、後ろから声をかけられました。
「……ノント様」

 ノント様は、仏頂面で、わたくしを見つめました。
「それで、話とは?」
「……え?」
「イグニス殿下から、あなたが俺に話があると伺いました」
「イグニス殿下が?」

 わたくし、取次をイグニス殿下に頼んだかしら?

 でも、これは、願ってもないチャーンス!!!

「ノント様のおさなな……」
「いやです」
「まだ最後まで言ってません!」

 ちっ、さすがは鉄壁ガードですわね。

「ひとめ……」
「いやです」
「だから、最後まで言ってません!」
「俺のアリスには、イグニス殿下を会わせません」


 ……え。

「いま、なんと」
「アリスにはーー」
「いえ、その前です」

 わたくしの聞き間違いですわよね。

「俺のアリス」
「ぎ、ぎぎ、ぎゃーーーーーーーーーー!!!!」

 アリス、はヒロインの名前です。
 それに、俺の、という冠詞がついたということは……。

「ま、まさか。ノント様は……」
「はい。アリスと付き合ってます」

 そ、そそそそそそそんな嘘でしょ!?!?

「なので、メルシャン嬢。あなたも諦めてさっさとイグニス殿下の嫁にーーメルシャン嬢?」
「あ、あ」

 わたくしの、ハッピー⭐︎推しを幸せにするぞ計画、が終了ですわーーーー!!

「っ、メルシャン嬢!!!」


 それ以上考えたくなかったわたくしは、意識を手放しました。
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