【短編】転生悪役令嬢は、負けヒーローを勝たせたい!

夕立悠理

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「さぁ、シアノ。挨拶なさい」
 さっそくやってまいりました。

 だって、わたくし、公爵令嬢ですもの。
 貴族の中で一番えらいんですのよ、えへん。
 もちろん、お父様が、ですけれど。

 というわけで、まっさきに、イグニス殿下にご挨拶をする権利をいただけました!

「お初にお目にかかります。シアノ・メルシャンと申します」

 決まったー!
 噛まずに言えましてよ。

 そして、優雅に礼をして、微笑みました。

 お次は、イグニス殿下の番。
「初めまして、メルシャン嬢。僕は、イグニス。よろしくね」

 ううっ、眩しい。
 推しのキラキラスマイルってこんなに破壊力があるんですのね!
 それに、声も想像通りですわ。
 幼さの中にも理知的な音が既に現れています。
 まあ、どんな声でも推しの声というだけで、人魚の歌声よりも素晴らしいのは確定ですが。

 ……さてさて、挨拶も終わったことですし。
 ここから与えられるのは、約1分間のフリートーク。ここでがしっと、ばしっと、イグニス殿下の心を掴んで、婚約者の座に収まりたいところです。


 さぁ、何から攻めましょうか。

「ところで、メルシャン嬢は何か得意なこととかある?」

 得意なこと。
 イグニス殿下は原作では、ピアノがお得でしたわね。
 わたくしもまあまあ弾けるので、話を合わせるのも一つの手ですね。それでいきま……。
「あなたの幸せを願うことです!」
「……え、」

 しまったー!!!!!!!!
 口が滑って、やらかしちまいましたわ。

 本当に得意なことを言ってどういたしますの。
 ですが、イグニス様限界オタクとして、得意なことといえば、イグニス様の幸せを願うことに決まっているでしょう!

「それって、どういう、……」

 イグニス殿下は、たいそう戸惑っておいでな様子。それもそうですわよね。
 わたくしだって、初対面の人にそんなことを言われたらこわいですわ。

「それは……」

 どうしましょう。
 いえ、もうこうなったら!!!!!

「わたくし、イグニス殿下の幸せを願うことがとっても得意です。ずっと前から、今日のこの日を楽しみにしてきました。(前世の推しとの初対面だから)できることなら、わたくしがイグニス殿下を幸せにしたい。そう思って、今日までを生きてきました。(実際に幸せにしてくださるのはヒロインですが)そして、今日確信いたしました。あなたこそが、わたくしが全力で、愛し(推し)続ける方だと」

「!!!!!!!」

 だから、どうかわたくしのことを婚約者にしてほしいって、これじゃあ、完全にやばいやつです。

 自分のオタク度にドン引きしつつ、ちらりとイグニス殿下を見つめます。
「!」

 イグニス殿下は顔を真っ赤にさせていました。

 あっ、もしかして、ドン引きを通り越して、初対面のくせに何言ってんだお前! の怒りモードに入ったパターンですの!?!?

 いやです。
 お怒りモードもそれはそれは神に違いないですが、婚約者の座収まれないとわたくし……。

「……そう、シアノ嬢の得意なことが知られて、よかったよ」

 と、微笑んだイグニス殿下で、フリートークは終了いたしました。

 わたくしのオタク語りで、ほとんど1分はすぎてしまった様です。

 あ、ああー!!!!!!!
 終わった。終わりましたわ。

 最後のイグニス殿下の笑みは、営業スマイルですわよね。
 
 イグニス様をヒロインとハッピーにするぞ、計画の早急な見直しを図らないといけないです。

 ショックを受けながら、すごすごと、お兄様の元に戻り、残りのパーティーは、おとなしく過ごしました。
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