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初夜

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 国民たちへの私の顔見せは、後日するらしく、本当に今日行われるのは結婚式だけだった。

「……は、」
 皇帝夫妻共有の寝室に通され、息を吐く。

 私の方の準備が早かったらしく、皇帝陛下はまだ見えない。

 いや、おそらくこないだろう。


 だって、皇帝陛下には愛人……と呼ぶのは失礼か……愛する恋人がいるようだし。

 誓いの口付けさえ拒んだ皇帝陛下が、わざわざ初夜を済ませに来るとは思えない。

 そこまで考えて、どっと力が抜けた。

「……!」
 ベッドの枕に顔を押し付けて、ばたばたと足を揺らす。
 
 冷徹な皇帝陛下の恋人がどんなひとかは知らないが、このまま皇帝陛下の手綱を握りつつ、適度な寵愛を維持してほしいと願う。

 過度な寵愛であれば、私が殺されかねないので!

 死んだも同然だと思っていた。
 でも、死ぬのはやっぱり怖い。

 自分勝手な生存欲に呆れ返りながら、私の半生を頭の中で遡ーー。

「!?」

 嘘。
 ノックの音が聞こえた。

 その音がしたのは、皇帝陛下の私室から繋がる扉で。

 いや、待て。
 焦るのは早い。

 どうせ、私は君を愛せない的な釘を刺すつもりだろう。

 それか、外聞のため、一夜ここで過ごすだけ。
 それなら納得だ。

 急いで起き上がり、ベッドの脇に座る。さっさと、返事をしないのも恐ろしいのでーー何せ相手は冷徹皇帝だーーはい、と返事をする。

 すると、扉が開かれた。


 無言でじっと、こちらを見つめる青銀の瞳。
「ーー」
 何か口を開きかけ、やめた皇帝陛下は、ゆっくりと私の方へと歩いてきた。

 そして……。
「お待ちしておりました」
「!?」

 満面の笑みで、皇帝陛下は私の前に跪いた。

 ……真実の愛の隠れ蓑にわざわざ跪く冷酷皇帝なんて、聞いたことないですけど!?!?

 それだけ感謝してるってこと!?!?

「……あなたを。あなただけを、ずっとお待ちしていました」
 言い終わると、私の足を持ち上げた。

「……え」

 口付けが、足の甲に落とされた。

 それは、忠誠を誓う口付けだ。

 え!? 私、冷酷皇帝に忠誠を誓われてる!? なぜ!?

「な、……」

 なぜ、なんて言葉にはだせなかった。
 私を熱心に見つめる青銀の瞳は、どこまでも、渇望が映っていた。

「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」

 下僕。誰が。誰の。
 もう一度確認するけれど、彼はアムリファの冷酷皇帝その人である。

「過去も、未来も。永久に俺の主はあなただけ。ずっと……会いたかった」

 これが演技なら、大物どころか世界を代表する俳優になれるだろう。
 それほど、その瞳は、その吐息混じりの言葉は、熱がこもっていた。

 だが、私に皇帝の知り合いはいない。
 ……つまり。

 どういうこと!?
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