上 下
4 / 19

私の意味

しおりを挟む
「……ここは」
アンドリューが馬を止めたのは、城門の前だった。まさか、家名を名乗っていなかったが、アンドリューは貴族だったのだろうか。それとも、不法移民として、私をつき出すつもりだとか?

 私が混乱しているうちに、エスコートされて馬からおり、アンドリューは衛兵に馬を引き渡した。

 「パトリックをよろしくたのむ」
「はっ!」
白馬は衛兵に引かれていってしまった。それを見送っていると、アンドリューに手を引かれた。

 「俺たちは、こっちだ」

 アンドリューは勝手知ったるようにずんずんと城内を進んでいく。その様子を見て、そう言えば。と思い出す。

 私は、社交の時期に丁度巫女候補として、神殿に上がっていたから、実際にお会いしたことはなかったけれど。隣国の王弟殿下は、赤髪にとても見目麗しい顔をしているらしい、と聞いた。

 いや、でも、まさか。

 隣国の王弟ともあろうお方が、私のようななんの意味ももたない、なにもできない私を欲する理由がない。

 心ではそう思っているのに、衛兵に咎められずに、城の中枢へとアンドリューは進んでいくので、絶対に違うと思いきれないでいた。

 そして──。


 一際重厚な扉の前についたとき、アンドリューはついに、私に被せていたローブを外した。そして、私に囁く。

 「悪いが、なかに入ったら礼をしてくれ。そして、俺が中で何を言っても、頷いてくれ。説明は、後でする」
「わかりました」

 私が頷くと、アンドリューは衛兵に、
「兄上に、俺が来たと伝えてくれ」
と言うと、すぐに取り次がれ、扉のなかに入ることとなった。

 扉のなかにはいってすぐに、アンドリューと共に頭を深く下げる。

 「面を上げろ」
という声にしたがい、顔をあげると、目の前にいた人物は、冠をして、豪華絢爛な椅子に座っていた。

 それだけで、相手は誰だか予想がついた。たらりと、背中を冷たい汗が流れる。

 「陛下におかれましては、たいへ──」
 「今は私とお前たちだけだ。堅苦しい前置きは必要ない。放蕩者の愚弟が、今度は何のようだ」

 陛下! やはり、目の前の人物は、隣国の王だった。そして、愚弟ということはやはり、アンドリューは──。

 アンドリューは、硬直する私とは対照的に、肩をすくめて笑ったあと、私の腰を引き寄せた。

 「俺の妻となるべき人を見つけたので、結婚のお許しを頂きに参りました」
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

婚約解消は君の方から

みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。 しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。 私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、 嫌がらせをやめるよう呼び出したのに…… どうしてこうなったんだろう? 2020.2.17より、カレンの話を始めました。 小説家になろうさんにも掲載しています。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

処理中です...