愛されイージーモードはサービスを終了しました。ただいまより、嫌われハードモードを開始します。

夕立悠理

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「……え?」
 今、なんて言った?

「ベル?」
 ラウル殿下が私に手を伸ばす。
「ーーっあ」
 ぐらぐらと視界が揺れる。
 目を開けていられないーー。

 ……プツン。

 まるで、前世でテレビの電源を落とした時みたいに。
 私の意識は、一瞬で消えた。

◇◇◇

「……ん」
 頭がとても重い。……というか、痛い?

「しっかりなさってください、ベルナンデ様!」
「!!!」

 名前を呼ばれて、急速に意識が覚醒する。
 目を開けると、鏡に純白のドレスに身を包んだ私が映っていた。

「……え?」
 さっきまで、貴族学園の卒業式だったはず。こんなドレスなんか着ていなかったわ。

 それにさっきのアナウンスは……。

「え? ではありませんよ! 本日は、ラウル殿下との結婚式ですのに」
 侍女のオリスが鏡越しに目を釣り上げた。
「……結婚式?」
 ラウル殿下の告白は断ったはず。
 それなのに、どうしてーー。

 もしかして、ラウル殿下のハッピーエンドルートに入ったってこと?

 ラウル殿下のエンドは、ラウル殿下とベルナンデの結婚式で終わる。

 私は乙女ゲーマーだったけれど、その他にも数多くのライトノベルも読んでいた。
 その中には、こうしてゲームの中に転生する話も数多くあり、その中には「強制力」と呼ばれる世界の理に抗えない、みたいな話もあった。

 つまり、告白を断ったにもかかわらず、その強制力とやからが働き、ラウル殿下とのハッピーエンドを迎える……という展開もありえなくはない。

 時間軸が学園卒業からいきなり飛んでいて、結婚式になっているのも、この世界がゲームの世界ならではかしら。

 ……でも、よかった。

 それなら、意識が途切れる前に聞いた、嫌われハードモードとかいう言葉は、ただの夢、よね。

 そもそも、この乙女ゲームにモードの選択なんてなかったはずだし。

 どうせ生きるなら、嫌われハードモードより、愛されイージーモードほうがいいに決まってる。

「いつまで惚けておいでですか?」

 私が考えに耽っていると、オリスが先ほどよりも厳しい瞳を私に向けた。

「ごめんなさい……?」

 たしかに、結婚式の準備中なのにぼんやりしているのは、悪かったけれど。

 オリスはいつもこんな態度だったかしら。
 意識を失う前のオリスはもっと……。

「では、私どもは失礼いたしますね」

 鼻を鳴らすとオリスを始めとした侍女たちは出て行ってしまった。

「……え」

 どうやら、ドレスの着付けは終わったらしい。
 でも、私、意識を失っていたから、結婚式の流れなんて全然わからない。

 どうしたものか。

 ……なーんて、私はこの世界のヒロインなのだ。

 だから、多少の失敗は許されるだろう。

 そう思いながら、改めて鏡を見る。
 豪華な純白のウェディングドレスに、煌めくジュエリー。琥珀色の瞳。そして、綺麗に高く結い上げられた髪ーーこの髪のせいで頭が痛かったらしいーー。

 どこからどうみても、ラウル殿下のハッピーエンドのヒロインだった。

「……そう、よね」

 先ほどのアナウンスは忘れよう。
 それに、オリスの態度も、少し虫の居どころが悪かっただけよ。

 一度、頬を叩く。

「よし」

 ラウル殿下ルートに入っちゃったのは予想外だったけれど。まあ、相手は第一王子だし。

 結婚相手としては、そこまで悪くない。

 それに、一人を選ぶのは世界の損失、だと思っていたけれど、将来の王妃としてあまねく民を愛するのは、ヒロインとしてありかもしれないわ。

「……うん」


 年貢の納め時ってやつかしら。

 ……コンコンコン。
 控えめなノック音に、扉を開ける。

「お父……」

 そこには、養父ユーズ公爵が立っていた。
 満面の笑みで近寄ろうとして、思わず笑みを引っ込めた。
「……お父様?」

 お父様は大変冷めた瞳で私を見つめていた。
 
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