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――この世界はゲームだ。

 そして、私はこの世界のヒロイン。誰もかれもが私に傅く。
「愛しているよ、俺のベル」
 サラサラな金髪に緑の瞳の第一王子ラウル殿下。
 この国始まって以来の天才と謳われる彼でさえも、『私』というルールの前には無力だ。
 愛を乞う哀れな男に成り下がる。

「……ふふ。殿下は冗談がお上手ですね」
 でも、たとえ王子に愛を乞われようと、私は簡単に頷いたりしない。
 だって、ヒロインですもの。
 一人だけが独占するなんて、罪でしょう?

◇◇◇

 私の名前は、ベルナンデ・ユーズ。
ユーズ公爵家の養女で、この世界のヒロインだ。
 私がこの世界がゲームの世界だと気づいたのは、十五歳のとき。
 
 この世界は前世ではまった乙女ゲームの世界で、私はそのゲームの主人公――ヒロインだった。

 もともとは平民だったけれど、それでもヒロインらしく、蝶よ花よと大切に育てられていたけれど。
 十五歳の時に、私だけが使える魔法――聖音魔法が開花し、公爵家に養女として引き取られることになった。

 聖音魔法で私が歌うと、聞いた人の傷が癒えるというものだ。

 歌うことは元から好きだし、ただ歌うだけで人の役に立てるなら一石二鳥だわ。
 そう思うと同時に、こんな設定どこかで、と頭が痛み、前世を思い出したというわけだ。

 公爵家には、夫妻の実子であるアレクシアお姉様や、ロイドお兄様がいたけれど、そこも愛されヒロインパワーで簡単に受け入れられ、もちろん夫妻にも愛された。

 十六歳になり、貴族学園に入学してから――つまり乙女ゲームが開始しても、私は愛されヒロインだった。
 むしろ、ゲームが開始したそのときからこそが本領発揮と言える。

 私は数多くの貴公子や貴族令嬢たちと笑い合い、ときには言い寄られ、楽しく過ごした。

 ……でも。
私は攻略対象たちから、誰も選ばず、ゲーム期間を終えるつもりだ。

理由は、単純だ。

だって、私はヒロインなのだ。
私が誰かに独占されるなんて、世界の損失だと思うの。

「俺のベル、愛しているよ――」
 このゲームには逆ハーレムルートはない。
 全員の好感度がMAXにも関わらず、自分で誰も選ばなかった場合は、自動的にパッケージのど真ん中を飾るラウル殿下……メインヒーロ―に告白される。
ここで受け入れたら、改めてラウル殿下とのハッピーエンド。

というか、受け入れる以外の選択肢はゲームにはなかった。

 だって、攻略対象者たちと恋愛がしたくてゲームをしているはずだから。
 だから好感度がMAXなのに、誰も選ばないなんて、あり得ない。
 ……というのが、開発者の意見だった。


 ――この世界はゲームだ。

 でも、私には口があり、話すことができる。
 だから……。

「……ふふ。殿下は冗談がお上手ですね」

 私はラウル殿下を選ばない。
 私の拒絶にラウル殿下は、驚いた顔をした。

 ラウル殿下に微笑み、いつものように無邪気なヒロインらしく振舞おうとして――。


『ピンポンパンポーン』

「!?」

 大きな音がした。

 その音は、前世でよく聞くアナウンス前のチャイム音だった。
 思わず、耳を抑えたけれど、ラウル殿下はそんな私を不思議そうに見ている。

 ……もしかして、私にしか聞こえていない?

『愛されイージーモードはサービスを終了しました。ただいまより、嫌われハードモードを開始します』

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