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さて。そんなこんなで、チェスター様との婚約生活が始まった。

 私に与えられたのは、チェスター様の隣室だった。これで、思う存分チェスター様のことを知ることができるわね!

 それに。それに、もしかしたら、私が憧れていた恋愛結婚だってチェスター様と出来るかもしれないと、私の心は浮き足立っていた。

 チェスター様は、なぜあんなに自分を醜いと思うのかはまだわからないけれど。少なくとも現時点で私は嫌われてはいないみたい。だから私たち、きっといい関係になれると思う──というのは、楽観的すぎるかもしれないけれど。





 翌朝。与えられた自室で目を覚ますと、昨日まではなかったものがあった。
「?」
私が首をかしげていると、丁度私を起こしにやってきた侍女のサラが説明してくれた。
「そこにいけている花は、旦那様からの贈り物ですよ。今朝、自ら摘まれました」
「……そうなの?」

 思わず寝巻きのまま、ベッドからおり、綺麗に生けられた花に近づく。色とりどりの花からは、とてもかぐわしい香りがした。

 ふと、視線をずらすとカードが花瓶の近くに添えられていた。

『美しい君へ 綺麗な君にはかなわないけれど。少しでも君の心を明るく出来たら』

 とても綺麗で几帳面そうな字でそう書かれていた。


その字をそっと撫でる。そこには確かに気遣いが感じられた。どんな顔でチェスター様は、このカードを書いたのかな。特別じゃない日に貰う、特別な言葉。

 それが嬉しくて、思わず頬を緩めた。

 そして、同時に決意する。

 ──チェスター様をこの一年間で必ず落として見せる、と。







 サラに手伝って貰い、支度を整え、朝食の席につく。ダイニングでは、既にチェスター様が紅茶を飲んでいた。
「おはようございます、チェスター様」
私は明るい声を心がけながら挨拶をした。

 「うわっ、今日も可愛い。というかやっぱり、昨日のは夢じゃなかったんだな。ああ、やっぱり君が可哀想だ。いや、でも、せっかくこんな醜い私が婚約者でいいと言ってくれたんだ。今さら断るなんて、失礼だろう。だが──」
視線をそらしながら、ぼそぼそと呟かれた言葉はばっちりと聞こえた。

 「あの、チェスター様?」
チェスター様、もしかして。もしかしなくても。ものっすごく、ネガティブなのでは。


 「あ、ああ。いやっ、なんでもない! ……おはよう」
「お花ありがとうございました。それに、カードも。とても嬉しかったです」
チェスター様に向かって微笑む。すると、チェスター様は盛大に紅茶を吹き出した。

 「チェスター様!?」
だっ、大丈夫かしら。
「……だ、大丈夫だ。少し私には眩しすぎただけだから」
そういうチェスター様の顔は赤い。

 朝食が始まるまで、チェスター様の顔の赤みがとれることはなかった。
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