6 / 8
6
しおりを挟む
さて。そんなこんなで、チェスター様との婚約生活が始まった。
私に与えられたのは、チェスター様の隣室だった。これで、思う存分チェスター様のことを知ることができるわね!
それに。それに、もしかしたら、私が憧れていた恋愛結婚だってチェスター様と出来るかもしれないと、私の心は浮き足立っていた。
チェスター様は、なぜあんなに自分を醜いと思うのかはまだわからないけれど。少なくとも現時点で私は嫌われてはいないみたい。だから私たち、きっといい関係になれると思う──というのは、楽観的すぎるかもしれないけれど。
翌朝。与えられた自室で目を覚ますと、昨日まではなかったものがあった。
「?」
私が首をかしげていると、丁度私を起こしにやってきた侍女のサラが説明してくれた。
「そこにいけている花は、旦那様からの贈り物ですよ。今朝、自ら摘まれました」
「……そうなの?」
思わず寝巻きのまま、ベッドからおり、綺麗に生けられた花に近づく。色とりどりの花からは、とてもかぐわしい香りがした。
ふと、視線をずらすとカードが花瓶の近くに添えられていた。
『美しい君へ 綺麗な君にはかなわないけれど。少しでも君の心を明るく出来たら』
とても綺麗で几帳面そうな字でそう書かれていた。
その字をそっと撫でる。そこには確かに気遣いが感じられた。どんな顔でチェスター様は、このカードを書いたのかな。特別じゃない日に貰う、特別な言葉。
それが嬉しくて、思わず頬を緩めた。
そして、同時に決意する。
──チェスター様をこの一年間で必ず落として見せる、と。
サラに手伝って貰い、支度を整え、朝食の席につく。ダイニングでは、既にチェスター様が紅茶を飲んでいた。
「おはようございます、チェスター様」
私は明るい声を心がけながら挨拶をした。
「うわっ、今日も可愛い。というかやっぱり、昨日のは夢じゃなかったんだな。ああ、やっぱり君が可哀想だ。いや、でも、せっかくこんな醜い私が婚約者でいいと言ってくれたんだ。今さら断るなんて、失礼だろう。だが──」
視線をそらしながら、ぼそぼそと呟かれた言葉はばっちりと聞こえた。
「あの、チェスター様?」
チェスター様、もしかして。もしかしなくても。ものっすごく、ネガティブなのでは。
「あ、ああ。いやっ、なんでもない! ……おはよう」
「お花ありがとうございました。それに、カードも。とても嬉しかったです」
チェスター様に向かって微笑む。すると、チェスター様は盛大に紅茶を吹き出した。
「チェスター様!?」
だっ、大丈夫かしら。
「……だ、大丈夫だ。少し私には眩しすぎただけだから」
そういうチェスター様の顔は赤い。
朝食が始まるまで、チェスター様の顔の赤みがとれることはなかった。
私に与えられたのは、チェスター様の隣室だった。これで、思う存分チェスター様のことを知ることができるわね!
それに。それに、もしかしたら、私が憧れていた恋愛結婚だってチェスター様と出来るかもしれないと、私の心は浮き足立っていた。
チェスター様は、なぜあんなに自分を醜いと思うのかはまだわからないけれど。少なくとも現時点で私は嫌われてはいないみたい。だから私たち、きっといい関係になれると思う──というのは、楽観的すぎるかもしれないけれど。
翌朝。与えられた自室で目を覚ますと、昨日まではなかったものがあった。
「?」
私が首をかしげていると、丁度私を起こしにやってきた侍女のサラが説明してくれた。
「そこにいけている花は、旦那様からの贈り物ですよ。今朝、自ら摘まれました」
「……そうなの?」
思わず寝巻きのまま、ベッドからおり、綺麗に生けられた花に近づく。色とりどりの花からは、とてもかぐわしい香りがした。
ふと、視線をずらすとカードが花瓶の近くに添えられていた。
『美しい君へ 綺麗な君にはかなわないけれど。少しでも君の心を明るく出来たら』
とても綺麗で几帳面そうな字でそう書かれていた。
その字をそっと撫でる。そこには確かに気遣いが感じられた。どんな顔でチェスター様は、このカードを書いたのかな。特別じゃない日に貰う、特別な言葉。
それが嬉しくて、思わず頬を緩めた。
そして、同時に決意する。
──チェスター様をこの一年間で必ず落として見せる、と。
サラに手伝って貰い、支度を整え、朝食の席につく。ダイニングでは、既にチェスター様が紅茶を飲んでいた。
「おはようございます、チェスター様」
私は明るい声を心がけながら挨拶をした。
「うわっ、今日も可愛い。というかやっぱり、昨日のは夢じゃなかったんだな。ああ、やっぱり君が可哀想だ。いや、でも、せっかくこんな醜い私が婚約者でいいと言ってくれたんだ。今さら断るなんて、失礼だろう。だが──」
視線をそらしながら、ぼそぼそと呟かれた言葉はばっちりと聞こえた。
「あの、チェスター様?」
チェスター様、もしかして。もしかしなくても。ものっすごく、ネガティブなのでは。
「あ、ああ。いやっ、なんでもない! ……おはよう」
「お花ありがとうございました。それに、カードも。とても嬉しかったです」
チェスター様に向かって微笑む。すると、チェスター様は盛大に紅茶を吹き出した。
「チェスター様!?」
だっ、大丈夫かしら。
「……だ、大丈夫だ。少し私には眩しすぎただけだから」
そういうチェスター様の顔は赤い。
朝食が始まるまで、チェスター様の顔の赤みがとれることはなかった。
0
お気に入りに追加
2,815
あなたにおすすめの小説
この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!
めーめー
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。
だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。
「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」
そこから彼女は義理の弟、王太子、公爵令息、伯爵令息、執事に出会い彼女は彼らに愛されていく。
作者のめーめーです!
この作品は私の初めての小説なのでおかしいところがあると思いますが優しい目で見ていただけると嬉しいです!
投稿は2日に1回23時投稿で行きたいと思います!!
【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。
伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。
しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。
当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。
……本当に好きな人を、諦めてまで。
幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。
そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。
このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。
夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。
愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。
結婚が決まったので、あなたには私を好きになってもらいます!
夕立悠理
恋愛
「椿、お前には結婚してもらう」
「……は?」
五年ぶりに父に話しかけられたと思ったら、突然婚約者ができた八代椿(やしろつばき)。
引きこもり生活をやめ、しぶしぶ、その婚約者が通っている学園に通うことに。
けれどその学園で初めてあった、婚約者はどうやら、別の女に夢中らしい。
──でも、そんなの関係ない。
「あなたには、今日から私を好きになってもらうわ!」
だって、椿の目標は、愛のある家庭を作ることなのだから。
無理やり婚約したはずの王子さまに、なぜかめちゃくちゃ溺愛されています!
夕立悠理
恋愛
──はやく、この手の中に堕ちてきてくれたらいいのに。
第二王子のノルツに一目惚れをした公爵令嬢のリンカは、父親に頼み込み、無理矢理婚約を結ばせる。
その数年後。
リンカは、ノルツが自分の悪口を言っているのを聞いてしまう。
そこで初めて自分の傲慢さに気づいたリンカは、ノルツと婚約解消を試みる。けれど、なぜかリンカを嫌っているはずのノルツは急に溺愛してきて──!?
※小説家になろう様にも投稿しています
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)
夕立悠理
恋愛
伯爵令嬢ミレシアは、恐れ多すぎる婚約に震えていた。
父が結んできた婚約の相手は、なんと冷酷と謳われている隣国の皇帝陛下だったのだ。
何かやらかして、殺されてしまう未来しか見えない……。
不安に思いながらも、隣国へ嫁ぐミレシア。
そこで待っていたのは、麗しの冷酷皇帝陛下。
ぞっとするほど美しい顔で、彼はミレシアに言った。
「あなたをずっと待っていました」
「……え?」
「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」
下僕。誰が、誰の。
「過去も未来も。永久に俺の主はあなただけ」
「!?!?!?!?!?!?」
そういって、本当にミレシアの前では冷酷どころか、甘すぎるふるまいをする皇帝ルクシナード。
果たして、ルクシナードがミレシアを溺愛する理由は――。
ヤンデレ幼馴染が帰ってきたので大人しく溺愛されます
下菊みこと
恋愛
私はブーゼ・ターフェルルンデ。侯爵令嬢。公爵令息で幼馴染、婚約者のベゼッセンハイト・ザンクトゥアーリウムにうっとおしいほど溺愛されています。ここ数年はハイトが留学に行ってくれていたのでやっと離れられて落ち着いていたのですが、とうとうハイトが帰ってきてしまいました。まあ、仕方がないので大人しく溺愛されておきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる