こんにちは、女嫌いの旦那様!……あれ?

夕立悠理

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落ち着け、落ち着くのよ、私。そうそうこんなときは、深呼吸よ。すって、吐いて。すって、吐いて。うん。落ち着いてきた。

 それにしても、やりやがったわね、お父様。
 
 なーにが、必ず幸せになれるさ。その得意な嘘泣きをつかって、ロペス公爵を落としなさい。よ!

 私の嘘泣きはそもそもお父様に仕込まれたものなのに。

 「……はぁ」
ため息をついて、馬車の窓から外を眺める。変わっていく景色は、のどかだ。春だからか、どこも活気があっていい。

 そののどかさは、私の前世を思い起こさせた。地球という星の日本という国で生まれ育った記憶。

 幸せだった。恵まれていた。──そのことにすら、気づかないほど。






 「ふわぁあ」
思わず欠伸をしてしまい、目を覚ます。どうやら春の陽気にあてられて、眠ってしまったようだった。ん、と大きく伸びをしたところで、ひときわ大きく馬車が揺れた。どうやら、公爵邸についたようだ。

 ロペス公爵はどんな方なのかしらね。

 御者にお礼をいって馬車から降り、公爵邸の前に立つ。

 この世界の貴族は、結婚といってもすぐに結婚する訳じゃない。一年の婚約期間をもうけ、その一年間は婚約者は男性の家で過ごすのが通例だ。

 一年間一緒に過ごしてみて、合わなかったらわかれればいい……といいたいところだけれども。残念ながら、そんな例はほとんどない。どちらかというと、一年の間にお互いの感情のすりあわせをするのだ。

 情を育んでいくのか、それとも割りきった政略結婚をするのか。

 まぁ、女嫌いで有名な公爵閣下のことだもの。後者になるに違いないわ。

 嘘泣きで落とせばいいなんて、お父様は言うけれど。私ごときの嘘泣きで落ちるほど、公爵閣下は甘くはないだろう。

 これでも、恋愛に興味があったんだけどなぁと、考えながら応接室に通される。

 応接室では、既に公爵閣下が待っていた。さらさらの金髪に海のように澄んだ青い瞳。なるほど。確かに美しい。

「お初にお目にかかります。リミカ・ブラウンと申し──」

 けれど。私の言葉は最後までいえなかった。青の瞳と目があったと思うと、彼──チェスター様は、顔を真っ赤にして倒れたからだ。
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