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そのろく
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夢は、まだ覚めない。
「……お嬢様?」
不思議そうな顔をした侍女の言葉にはっとする。いけない、刺繍の手が止まっていたわ。今日は我が家の家紋をハンカチに縫っていた。
「何でもないわ」
そう、何でもない。何も起きない。この世界が夢だと思っているのに、夢は覚めない。
マーカス殿下から貰った花の香りが鼻をくすぐる。マーカス殿下はあれから花が枯れる前に私の家を訪ね、新たな花束をプレゼントしてくれた。
まるで、本当に私を必要としてくれているみたい。思わず自分が思ったことに失笑してしまう。現実のマーカス殿下も私を必要としてくれた。アイカの病が治るまでの婚約者役として、だけれど。
頬をつねってみる。確かに痛い。けれど、これは、夢のはず。夢でなければなんだというのか。マーカス殿下が夢以外で私に恋するはずもないのに。そんなこと、わかっている。わかっているはずなのに。
「っ!」
針を自分の指にさしてしまった。痛い。この実感を伴う痛みは。なぜ、目を覚ましてはくれないの。
そんなとき。
「お嬢様」
「どうしたの?」
従僕が私を呼んだ。
「アイカ様がお見えです。いかがされますか?」
「……お嬢様?」
不思議そうな顔をした侍女の言葉にはっとする。いけない、刺繍の手が止まっていたわ。今日は我が家の家紋をハンカチに縫っていた。
「何でもないわ」
そう、何でもない。何も起きない。この世界が夢だと思っているのに、夢は覚めない。
マーカス殿下から貰った花の香りが鼻をくすぐる。マーカス殿下はあれから花が枯れる前に私の家を訪ね、新たな花束をプレゼントしてくれた。
まるで、本当に私を必要としてくれているみたい。思わず自分が思ったことに失笑してしまう。現実のマーカス殿下も私を必要としてくれた。アイカの病が治るまでの婚約者役として、だけれど。
頬をつねってみる。確かに痛い。けれど、これは、夢のはず。夢でなければなんだというのか。マーカス殿下が夢以外で私に恋するはずもないのに。そんなこと、わかっている。わかっているはずなのに。
「っ!」
針を自分の指にさしてしまった。痛い。この実感を伴う痛みは。なぜ、目を覚ましてはくれないの。
そんなとき。
「お嬢様」
「どうしたの?」
従僕が私を呼んだ。
「アイカ様がお見えです。いかがされますか?」
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