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そのご

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アルロに言われた言葉が、ぐるぐると頭のなかをめぐる。

 『僕も、レオーネのこと、好きだよ。ずっと、前から』

 アルロが私のことをそんな風に想ってくれていたなんて思いもよらなかった。いえ、でも、夢ならば。それも私の願望なのだろうか。

 「……眠れないわ」
夜、ベッドに横たわったのはいいものの、さっぱり眠気はやってこなかった。今度、寝たら私は現実に戻るのかしら。アイカとマーカス殿下が婚約する現実に──。

 その現実を見たくなくて、こんな夢を見てるの?

 アイカ。私の親友。アイカのことは好きだ。とても。でも、マーカス殿下に見初められた彼女を妬ましく思わないかと言われていいえと答えれば嘘になる。

 それでも、私はアイカを祝福したかったし、そんな私になりたかった。どうせ見るならこんな中途半端な夢じゃなく、そんな私になれる夢だったら良かったのに。

 そんなことを考えていると、眠気がやってきた。次、目を開けると、そこは現実に戻っていることを夢見て、目を閉じた。





 陽光で目を覚ます。結論からいうと、夢は覚めなかった。思ったよりも長い夢ね。そんなことを思いながら、支度を整える。

 「お嬢様」
朝食をとって、部屋でくつろいでいると、侍女に声をかけられた。
「マーカス殿下がお見えです」
マーカス殿下が!?

 丁度着ていたドレスはフォーマルなものだったので、そのまま急いで応接室に向かう。

 応接室のマーカス殿下は、どこか緊張した顔をしていた。
「おはよう、レオーネ嬢」
「おはようございます、マーカス殿下」

 それで、今日はなんのようだろう。あのパーティーの返事……? にしては早すぎるし。

 「これを、あなたに渡しにきたんだ」
「……わぁ、素敵なお花ですね! ありがとうございます」
マーカス殿下から渡されたのは、黄色の花束だ。黄色は私の好きな色だった。でも、そんなこと、マーカス殿下に話したかしら? いえ、たまたまよね。

 「……それだけだ。突然すまないな」

そういって、マーカス殿下は帰っていってしまった。花束を渡すためだけに、わざわざ私の家に来るなんて、まるでマーカス殿下は私に恋をしているみたいだ。花束からは甘い、いい香りがする。私はそっと、花束を抱き締めた。幸せな夢は、覚めるのが怖いというけれど。現実に戻れなくなる前に、早く覚めればいいと思いながら。
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