もうすぐ、お別れの時間です

夕立悠理

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そのさん

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私は、ぼんやりとしながらパーティーの様子を眺めていた。この時期のいつもの私ならアイカに話しかけに行っていただろうけれど、そんな気分にもならない。

 私は。これが夢か現実かわからないけれど。私は何でよりによって、この日に戻ってきてしまったのだろう。今日はマーカス殿下の誕生日であり、マーカス殿下の御披露目の日でもあった。

 壁の花を決め込んで、目を閉じる。何も見たくない。また、マーカス殿下がアイカに恋に落ちるところなんて。

 「……?」
なんだか、回りが騒がしい。ざわざわとした音で、目を開ける。すると、菫色の瞳と目があった。

 「え──」

 なんで。なんで、あなたがこんなところに。
「レオーネ嬢、私と話さないか?」
マーカス殿下だった。マーカス殿下が私の顔と名前を知っていることには驚かない。だって、私は公爵令嬢だし。

 でも、なんでアイカのところじゃなくて、私のところに? いや。アイカのところにもう行った後かもしれない。『アイカの親友』に興味を持っただけかも。

 「……はい」

暗い気持ちになりながら私が頷くと、マーカス殿下はほっとしたような顔をした。

 庭園をマーカス殿下と歩く。

 マーカス殿下はなぜか、少し緊張しているように見えた。
「……あなたは、私に興味がないと思っていた」
「え?」

 「さっき、あなただけは私と目が合わなかったから。だから、こうして話ができて、嬉しい」
なるほど。マーカス殿下が私に話しかけにきたのはマーカス殿下が登場したとき、私が別のところをみていたからか。自分に興味がないのが、物珍しかったのだろう。

 「そんなことは……」
興味ならある。ありすぎるほどに。でも、私の態度は不敬に映っただろう。
「いや、構わない。私自身、もっと精進しなければと思えたから」

 その後、しばらく天気の話など特に意味もない話をした。そろそろ解散かしらね。そんなことを思っていたときのことだった。
「……その、だな」
「はい」

 なぜか目をさ迷わせたマーカス殿下に違和感を覚える。こんな緊張したマーカス殿下を私は、見たことがあった。

「私の婚約者になってくれないか?」

それは、アイカに恋に落ちたときのマーカス殿下、そっくりな姿だった。
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