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そのに

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「あれ、柚くん、最初のもうホームルーム終わったの?」
「ああ。ついでに、これ、だしにきた」

 ひらりと、一枚の書類を茜ちゃんに渡す。書類には、庶務に柚くんが立候補することがかかれていた。きっちり、生徒会担当の先生の印鑑ももらっている。

 「ええ!? 柚くん、テニスは?」
絶対、勧誘すごかったよね?
「テニス部は、合宿があるってきいて、やめた」
「なんで? 合宿楽しそうじゃない」
私が首をかしげると、柚くんは顔をしかめた。
「俺が合宿にいったら、誰かご飯をつくるんだ?」
「それは、もちろん私──」
「お米もとげない、夏音が?」
「もうできるもん!」
家庭科で習ったからばっちりだ。だから、安心して、テニス部に入ってほしい。

 「それに、生徒会には工藤もいるだろ」
「こら、柚くん、先輩をつけなさい。でも、本当に柚くんは工藤くんのことが好きだね」
中学のときも、私と工藤くんが話していると絶対に絡んできたし。
「はぁっ!? 俺は──、」
なぜかそこで柚くんは、言葉をきって、何でもない、といった。

 「でも、柚貴くんは本当にテニスはいいの?」
茜ちゃんが、柚くんに尋ねる。この書類に後は茜ちゃんが印鑑を押してしまったら、もう、柚くんは生徒会執行部の一員となる。生徒会は忙しいし、掛け持ちは厳しいだろう。
そのことを茜ちゃんが念押しして確認すると、柚くんは頷いた。

 「大丈夫です、中嶋先輩」







 帰り道を柚くんと歩く。
「そういえば、柚くん、背、のびたね」
いつの間にか、私の身長をはるかに越されてしまった。
「そうだな。……夏音は、」
柚くんが足を止めた。それにつられて、私も足を止める。

 「縮んだな」
「縮んでないよ! 柚くんが大きくなったの!」

 でも、私が手を引いた、小さな柚くんはもういない。今の柚くんは、気を抜いていたら置いていかれそうだ。

 私がそういうと、柚くんは、笑った。
「俺が夏音を置いていくはずないだろ。なんなら、手でも繋ぐか?」
「そうだね」
柚くんと手を繋ぐのなんて久しぶりだ。私が、ぎゅっと、手を繋ぐと、柚くんは慌てた。

 「ほんとに繋ぐのかよ!?」
「柚くんが言い出したんじゃない」

 照れているのか、柚くんはそっぽを向く。でも、握った手は振り払われなかった。そのことが、嬉しい。

 「ずっとずっと大好きだよ、柚くん」
「俺も、夏音が、」





「でも、工藤くんは渡さないからね。恋愛は真剣勝負なんだから!」





 「……は?」


 いくら柚くんといえども、工藤くんをゆずるつもりはなかった。工藤くんは、すごくかっこいいのになぜかそんなにモテる方ではないから安心していたのに、まさか柚くんも工藤くんのことが好きだったなんて。

「でも、どっちが工藤くんのことを射止めたとしても、私たちはずっと姉弟だよね?」
私がそういうと、柚くんは急に手を振りほどいた。
「俺は別に、そういう意味で工藤を好きじゃないし、夏音のことを姉だと思ってない」

 「……え?」
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