39 / 80
三章 私という存在
7話
しおりを挟む
城のすぐ近くで、住める場所ーー。
「それは助かりますが……」
いったい、どこだろう。
「魔術師は基本寮住まいだけれど、団長副団長や既婚者は家を持つことも多いんだ」
……確かに。以前の私は寮暮らしだったけど、そういう場合もあると知識が浮かんできた。
「僕は、副団長になったから、家に移り住むつもりだったんだ」
「そうなのですね」
「色々と落ち着くまで、そこで暮らすのはどうだろう? 一通りの設備は整っているはずだよ。ーーもちろん、異性だし、今の君にとって知らない人物である僕は住まない」
それは正直に言って、とてもありがたい提案だった。
「でも、ノクト様は嫌ではありませんか? せっかく自分の城として居を構えるつもりだったのに」
自分のために準備したスペースを他人に使われるのは、嫌ではないだろうか。
「ううん。嫌ならそんな提案をしないし、それに……」
ノクト様が金の瞳で、私を見つめる。
「今の君にできる限りのことをしたいんだ。僕の自己満足だけど、それでも」
その瞳には、強い後悔が映っていた。
ーー彼との間にも、何かあったのだろうか。
「ありがとうございます」
でも、おそらくあったのだろう「何か」を言わないのは有り難かった。
今の私には、判断がつかないからだ。
「ううん。じゃあ、そこで暮らすでもいいかな? 護衛と侍女も僕の家からつけようと思うけれども」
「ディバリー様!」
急に話に入ってきたのは、今まで黙っていた男の人たちーーおそらく陛下の側近たちだった。
「その……侍女と護衛は我々で選定させていただけませんか?」
ーーなるほど。
陛下の運命の番……かもしれない私に対して、なにもしないというのは、国として困る、ということだろう。
「あなたたちがーー? でも、そうですね。今のロイゼにはどの派閥に属さない者を手配する方がいいかもしれません。……ロイゼはどうかな?」
本当は、自分に侍女も護衛もいらない、と言いたいところだ。
でも、記憶喪失の私には、生活に不安があるし、色々と面倒ごとに巻き込まれないという保証もない。
「……はい。お願いします」
「では、話は決まったね」
ーーそれからはあっという間だった。
側近たちはすぐに侍女と護衛を選定し、彼らと私とノクト様で、ひとまず家に移動することになった。
「ここが、私が暮らす場所……。城とも近いですね」
ノクト様の住むはずだった家は、王城の本当にすぐ近くだった。
「寝坊が心配だったんだ」
そう言って苦笑いする彼は、寝坊とは無縁そうだ。
「そうなんですね」
でも、確かに王城での勤務が多い、魔術師にとって、近い方が便利なのは確かだろう。
「うん。さぁ、ようこそ。今日から、ここが君の家だ」
「それは助かりますが……」
いったい、どこだろう。
「魔術師は基本寮住まいだけれど、団長副団長や既婚者は家を持つことも多いんだ」
……確かに。以前の私は寮暮らしだったけど、そういう場合もあると知識が浮かんできた。
「僕は、副団長になったから、家に移り住むつもりだったんだ」
「そうなのですね」
「色々と落ち着くまで、そこで暮らすのはどうだろう? 一通りの設備は整っているはずだよ。ーーもちろん、異性だし、今の君にとって知らない人物である僕は住まない」
それは正直に言って、とてもありがたい提案だった。
「でも、ノクト様は嫌ではありませんか? せっかく自分の城として居を構えるつもりだったのに」
自分のために準備したスペースを他人に使われるのは、嫌ではないだろうか。
「ううん。嫌ならそんな提案をしないし、それに……」
ノクト様が金の瞳で、私を見つめる。
「今の君にできる限りのことをしたいんだ。僕の自己満足だけど、それでも」
その瞳には、強い後悔が映っていた。
ーー彼との間にも、何かあったのだろうか。
「ありがとうございます」
でも、おそらくあったのだろう「何か」を言わないのは有り難かった。
今の私には、判断がつかないからだ。
「ううん。じゃあ、そこで暮らすでもいいかな? 護衛と侍女も僕の家からつけようと思うけれども」
「ディバリー様!」
急に話に入ってきたのは、今まで黙っていた男の人たちーーおそらく陛下の側近たちだった。
「その……侍女と護衛は我々で選定させていただけませんか?」
ーーなるほど。
陛下の運命の番……かもしれない私に対して、なにもしないというのは、国として困る、ということだろう。
「あなたたちがーー? でも、そうですね。今のロイゼにはどの派閥に属さない者を手配する方がいいかもしれません。……ロイゼはどうかな?」
本当は、自分に侍女も護衛もいらない、と言いたいところだ。
でも、記憶喪失の私には、生活に不安があるし、色々と面倒ごとに巻き込まれないという保証もない。
「……はい。お願いします」
「では、話は決まったね」
ーーそれからはあっという間だった。
側近たちはすぐに侍女と護衛を選定し、彼らと私とノクト様で、ひとまず家に移動することになった。
「ここが、私が暮らす場所……。城とも近いですね」
ノクト様の住むはずだった家は、王城の本当にすぐ近くだった。
「寝坊が心配だったんだ」
そう言って苦笑いする彼は、寝坊とは無縁そうだ。
「そうなんですね」
でも、確かに王城での勤務が多い、魔術師にとって、近い方が便利なのは確かだろう。
「うん。さぁ、ようこそ。今日から、ここが君の家だ」
3,262
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
たとえ番でないとしても
豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」
「違います!」
私は叫ばずにはいられませんでした。
「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」
──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。
※1/4、短編→長編に変更しました。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
かつて番に婚約者を奪われた公爵令嬢は『運命の番』なんてお断りです。なのに獣人国の王が『お前が運命の番だ』と求婚して来ます
神崎 ルナ
恋愛
「運命の番に出会ったからローズ、君との婚約は解消する」
ローズ・ファラント公爵令嬢は婚約者のエドモンド・ザックランド公爵令息にそう言われて婚約を解消されてしまう。
ローズの居るマトアニア王国は獣人国シュガルトと隣接しているため、数は少ないがそういった可能性はあった。
だが、今回の婚約は幼い頃から決められた政略結婚である。
当然契約違反をしたエドモンド側が違約金を支払うと思われたが――。
「違約金? 何のことだい? お互いのうちどちらかがもし『運命の番』に出会ったら円満に解消すること、って書いてあるじゃないか」
確かにエドモンドの言葉通りその文面はあったが、タイミングが良すぎた。
ここ数年、ザックランド公爵家の領地では不作が続き、ファラント公爵家が援助をしていたのである。
その領地が持ち直したところでこの『運命の番』騒動である。
だが、一応理には適っているため、ローズは婚約解消に応じることとなる。
そして――。
とあることを切っ掛けに、ローズはファラント公爵領の中でもまだ発展途上の領地の領地代理として忙しく日々を送っていた。
そして半年が過ぎようとしていた頃。
拙いところはあるが、少しずつ治める側としての知識や社交術を身に付けつつあったローズの前に一人の獣人が現れた。
その獣人はいきなりローズのことを『お前が運命の番だ』と言ってきて。
※『運命の番』に関する独自解釈がありますm(__)m
竜王の花嫁は番じゃない。
豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」
シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。
──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。
【完結】愛していないと王子が言った
miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。
「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」
ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。
※合わない場合はそっ閉じお願いします。
※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。
白い結婚の行方
宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」
そう告げられたのは、まだ十二歳だった。
名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。
愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。
この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。
冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。
誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。
結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。
これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。
偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。
交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。
真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。
──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる