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冷ややかな声

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 よろめいた体を誰かに支えられたと気づくのと、冷ややかな声がかけられるのは同時だった。
「前も見ないで、何やってるの」
「……お兄様」

 お兄様はあきれた顔をして、私を見ていた。
「ごめんなさい。それから、ありがとうございます」
 不注意だった私が悪かった。でもそれにしたって、冷たすぎる声だった。

 お兄様、ほんとうに私が嫌いなんだな。
 知ってた。気づいてた。

 でも、ここまでとは思っていなかった。

「……ごめんなさい」

 楽しかった気分が一気に沈む。好きな人に嫌われている悲しみで、じわり、と涙が滲んだときだった。

「っ、僕は──」
「イアン」


 涼やかな、声だった。
 私が呼ばれたわけでもないのに、その声に引き寄せられて、振り向く。

 そこにいたのは、金髪碧眼の王子様──アシェル殿下だった。

 そうか、お兄様もアシェル殿下の側近候補だものね。

 アシェル殿下の澄んだ青い瞳と目が合う。アシェル殿下の瞳、近くで見るとこんなに綺麗なのね。……すごい。

 魅入られたように、その瞳から目がそらせない。でも、なぜか、アシェル殿下も私から目をそらさなかった。

 時間にして何秒か、何分か。
「……ト。ヴァイオレット」
 お兄様に名前を呼ばれて、ようやく、瞬きする。

 そうだった、アシェル殿下は、私じゃなくて、お兄様に用があったのだ。それなのに、私がずっと見つめていたせいで、お話ができなかったら困るものね。

「どうされました? アシェル殿下」
 お兄様が尋ねると、アシェル殿下はいや、と首を振った。
「なんでもない。……それより、イアンの妹君とお見受けするが」
 アシェル殿下は、私を見て、微笑んだ。
「よければ、私と少し話さないか?」

 えっ、えええええええ!?
そんな、王子様と話すなんて恐れ多い。なんていうわけがない。これは願ってもないチャーンス! アシェル殿下が無理でも、アシェル殿下と親しくなっておけば側近候補のいい人を紹介してくれるかもしれない。

「よろこん……もがっ!」
 私が満面の笑みで答えようとすると、お兄様に手で口を塞がれた。
「申し訳ありません、アシェル殿下。妹はまだ未熟なので、何か失礼があってはいけませんから」
なるほど。確かに私がやらかして、お兄様の出世に響いたら困るよね。えー、でも、せっかくのチャンス。ものにしたいんだけどな。

「……構わない。今回の茶会はそもそもがそんなに堅苦しいものではないからな。だから、妹君。私と話さないか?」
そういわれれば、お兄様も私の口から手を離すしかなかった。私はもちろん、笑顔で頷きましたとも!

 
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