偽物聖女は、最強騎士のご主人様！？

偽物聖女と青き軍神

「いや、あの……人違いだと思います」
「いいえ、あなただ！　あなたが俺が仕えるべき方」

　目の前で、跪かれましても困ります！

　さらさらの青い髪からのぞく瞳は空色でどこまでも澄んでいる。

　なるほど、これはアンナがファンになるのも納得ってそうじゃなーい！

　なんで、私の目の前に青き軍神サマがいるわけ！？

　——時は、数分前に巻き戻る。


◇◇◇


　今日もいつものように、偽物聖女のバイトに勤しんでいた。今日は、愚痴が溜まっている人がいつもよりも少ないかな……？　

　そんなことを考えながら、集まった人々の愚痴を順番に聞いていた。

「ありがとうございます。マーガレット様のおかげで、心が軽くなりました！」
「ふふ、それはよかったです」

　微笑んでお布施箱を差し出すと、ちゃりんと、お金を入れてくれた。

　そんな迷える子羊？を見送ってから、さて、次のお客さんは、と視線をやると。

「！？」

　ひぇ。コノヒトシッテル！！！

　そう叫ばなかった私を誰か褒めてほしい。

　新聞でしかみたことがなかった、麗しの王国どころか世界最強と謳われる騎士様がいた。

「えーっと、どんなお悩みですか？」

　やけに整ったお顔で、にこにこと微笑んでいる騎士様は、愚痴とは無縁に見えますが。
　そう首元まで出かかった言葉を飲み込み、微笑み返す。

「あぁ、ようやく見つけました」
「……？」

　神殿、もとい愚痴聞き所は、確かに最近数を減らしていた。……といっても、探すのに苦労するほど数が減ったわけではない。

　なのに、なにを見つけたというのか。

　首を傾げつつ、もう一度、どんなことでお困りですか、と尋ねてみる。

「困り事……、ようやく見つけた仕えるべき主を目の前にして、この感動を何と伝えれば良いのかわからないことですかね」
「……えーっと」

　そういえば、新聞で仕えるべき聖女がどうとか言ってた気がする。
「ええと、つまり、感動を言葉にできず、困っている、と」

　仕えるべき主がだれのことかは知らないけど。

「そうですね、無理に言葉にする必要はないのでは？」

　必ずしも、感動を言語化する必要はないと思う。感動した、その言葉だけで十分なときもある。

　そう伝えると、青き軍神サマは目を瞬かせた。

「確かにそうかもしれませんね。さすが、我が主」

　
　ワガアルジ？

　なにかの呪文かしら。
「では、お悩み解決、でよろしいでしょうか」

　お布施箱を取り出し、騎士様を見つめる。
「はい。ようやくあなたに出会えてよかった。今日という日に感謝を」

　お布施箱に、ごとっという明らかに小銭ではない音を響かせて、騎士様は微笑み、跪いた。

「ランドルフ・ノイグ。あなたの元に馳せ参じました。お待たせいたしました、俺の聖女様」