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私の幸福な日々が綻び始めたのは、十五才のときだった。異世界からの客人すなわち、稀人が現れたのだ。
私と、クライド殿下が王宮の庭を散策しているときに、彼女は空から降ってきた。クライド殿下は落ちてきた彼女を、受け止めた。
真っ直ぐな黒髪が、綺麗な、少女だった。少女は自らをメグミと名乗り、客人として、丁重に扱われた。
稀人は、福をもたらす存在と言われていたからだ。そして、稀人の特徴として稀人は、不思議な力を持っていた。メグミに宿った不思議な力は、人々の病や傷を癒す力で、その力を用いて、数々の人を治して見せた。
国中が、不思議な力を持った稀人を歓迎した。けれど、稀人には、もうひとつ、特徴があるのだ。
「どうしてっ! どうして、アドリアノさんは、私に元の世界に帰れなんていうの」
「それは、再三説明した通り、稀人がこの世界に留まれば、災いとなるからです」
稀人。それは、この世界にとっての異分子だ。長期間、この世界に留まると災いとなると言われていた。
そして、その稀人を元の世界へ送り返す方法もあったのだ。
それは、高濃度の魔力をもった清らかな乙女が、小指の血を魔方陣に一滴垂らすというものだった。
しかし、それほどの高濃度の魔力を持った乙女は、近年産まれていなかった。魔法は、我が国には不要と切り捨てられた現在は、貴族の魔力量も減っていたからだ。
でも、私なら。彼女をメグミを元の世界に返すことができる。彼女が災いとなる前に。
「私は、災いになんてならないわ! みんなの傷を癒していたのが、その証拠よ。みんな、みんな、私がこの世界に来てくれてよかったって──、わかった。アドリアノさんは、嫉妬してるのね。私とクライドの仲が良いから」
そんな、はずない。クライド殿下は私のことを想って下さっている。だから、私がメグミに嫉妬する理由はない。
けれど、勝ち誇ったように、メグミは、続けた。
「クライドは、アドリアノさんとの婚約を破棄して私を、新たな婚約者にするって、約束してくれたわ。だからでしょう?」
「え?」
違う。違う。そんなはずない。けれど、お母様に、言われた言葉がよみがえる。
──可愛くて、可哀想なアドリアノ。お前は、この世界の悪役なの。幸せには、なれないわ。
確かに、最近殿下が、散策に誘って下さらなくなった。執務が忙しいからだと、思っていたし、実際にそう、言われた。
でも、メグミのためにはよく時間を割いていた。執務で忙しいといっていた日に、メグミとお茶会をしていたのを知っている。でも、それは、メグミが稀人だからで。決して、メグミが、クライド殿下にとって特別だからではない。
そのはず、だ。だから、だから、私が不安に思う必要はないはずで。
そう思うのに、手はがくがくと震えながらナイフを取り出していた。そうだ、彼女さえ、メグミさえ元の世界に帰してしまえば、こんな不安はなくなる。
魔方陣は、メグミを呼び出す前に、描き終えていた。後は、私の小指の血を流すだけ。
そんなとき、だった。
──クライド殿下が現れたのだ。
「クライドっ!」
「クライド殿下、メグミを元の世界に帰しましょう」
メグミはクライド殿下にかけより、魔方陣から出てしまった。クライド殿下は、魔方陣と私の構えたナイフで全てを察してくれると思った。メグミが、災いになる前に、元の世界に帰るよう説得してくれるはずだと。
クライド殿下は、メグミの震える肩をなで、それなら、ゆっくりと私に近づいた。
「っ!?」
頬が熱い。殴られたのだと気づくまでに、数秒かかった。
「アドリアノ、君には失望した。大人しくしていれば、穏便に婚約を解消しようと思っていたけれど。まさか、嫉妬して、メグミを手にかけようとするなんて」
「ちがっ、」
「稀人たる、メグミを傷つけることは許されることではない。アドリアノ、君との婚約を破棄し、魔物の森へ追放する」
私と、クライド殿下が王宮の庭を散策しているときに、彼女は空から降ってきた。クライド殿下は落ちてきた彼女を、受け止めた。
真っ直ぐな黒髪が、綺麗な、少女だった。少女は自らをメグミと名乗り、客人として、丁重に扱われた。
稀人は、福をもたらす存在と言われていたからだ。そして、稀人の特徴として稀人は、不思議な力を持っていた。メグミに宿った不思議な力は、人々の病や傷を癒す力で、その力を用いて、数々の人を治して見せた。
国中が、不思議な力を持った稀人を歓迎した。けれど、稀人には、もうひとつ、特徴があるのだ。
「どうしてっ! どうして、アドリアノさんは、私に元の世界に帰れなんていうの」
「それは、再三説明した通り、稀人がこの世界に留まれば、災いとなるからです」
稀人。それは、この世界にとっての異分子だ。長期間、この世界に留まると災いとなると言われていた。
そして、その稀人を元の世界へ送り返す方法もあったのだ。
それは、高濃度の魔力をもった清らかな乙女が、小指の血を魔方陣に一滴垂らすというものだった。
しかし、それほどの高濃度の魔力を持った乙女は、近年産まれていなかった。魔法は、我が国には不要と切り捨てられた現在は、貴族の魔力量も減っていたからだ。
でも、私なら。彼女をメグミを元の世界に返すことができる。彼女が災いとなる前に。
「私は、災いになんてならないわ! みんなの傷を癒していたのが、その証拠よ。みんな、みんな、私がこの世界に来てくれてよかったって──、わかった。アドリアノさんは、嫉妬してるのね。私とクライドの仲が良いから」
そんな、はずない。クライド殿下は私のことを想って下さっている。だから、私がメグミに嫉妬する理由はない。
けれど、勝ち誇ったように、メグミは、続けた。
「クライドは、アドリアノさんとの婚約を破棄して私を、新たな婚約者にするって、約束してくれたわ。だからでしょう?」
「え?」
違う。違う。そんなはずない。けれど、お母様に、言われた言葉がよみがえる。
──可愛くて、可哀想なアドリアノ。お前は、この世界の悪役なの。幸せには、なれないわ。
確かに、最近殿下が、散策に誘って下さらなくなった。執務が忙しいからだと、思っていたし、実際にそう、言われた。
でも、メグミのためにはよく時間を割いていた。執務で忙しいといっていた日に、メグミとお茶会をしていたのを知っている。でも、それは、メグミが稀人だからで。決して、メグミが、クライド殿下にとって特別だからではない。
そのはず、だ。だから、だから、私が不安に思う必要はないはずで。
そう思うのに、手はがくがくと震えながらナイフを取り出していた。そうだ、彼女さえ、メグミさえ元の世界に帰してしまえば、こんな不安はなくなる。
魔方陣は、メグミを呼び出す前に、描き終えていた。後は、私の小指の血を流すだけ。
そんなとき、だった。
──クライド殿下が現れたのだ。
「クライドっ!」
「クライド殿下、メグミを元の世界に帰しましょう」
メグミはクライド殿下にかけより、魔方陣から出てしまった。クライド殿下は、魔方陣と私の構えたナイフで全てを察してくれると思った。メグミが、災いになる前に、元の世界に帰るよう説得してくれるはずだと。
クライド殿下は、メグミの震える肩をなで、それなら、ゆっくりと私に近づいた。
「っ!?」
頬が熱い。殴られたのだと気づくまでに、数秒かかった。
「アドリアノ、君には失望した。大人しくしていれば、穏便に婚約を解消しようと思っていたけれど。まさか、嫉妬して、メグミを手にかけようとするなんて」
「ちがっ、」
「稀人たる、メグミを傷つけることは許されることではない。アドリアノ、君との婚約を破棄し、魔物の森へ追放する」
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