この世界の悪役は、幸せになれませんか？

プロローグ

「ああ、可愛いくて、可哀想なアドリアノ」

　お母様にそういわれたのは、私の幸せの絶頂期だった。病で筋肉が落ち、細くなった指先で私の手を握りしめて。囀ずるように、囁いた。

　「──お前は、悪役なのよ」





　私こと、アドリアノは、シルビステイン侯爵家の長女として産まれた。私は、たくさんの人に祝福されて、この世に誕生した。それから、今まで、とても幸福だったし、人から見ても幸福な人生を歩んできたと思われている。

　十歳のとき、我が国の第二王子のクライド殿下との婚約が決まり、まさに順風満帆な人生だった。お母様にそのことを伝えたくて、私たちの婚約が決まったパーティのあと、急いで屋敷に戻り、病で伏せているお母様に報告した。

　けれど、そんな私にお母様は顔を真っ青にさせて、言ったのだ。


　「──お前は、この世界の悪役なの。幸せにはなれないわ」