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悪魔の要求
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「ーーえ」
今、教師とは別の声が聞こえたような。
でも眩しすぎて、目を開けられない。
「本来なら、殺すところだが……」
こ、こここここころす!!?
「……娘、目を開けろ」
娘?
もしかして……、私のこと?
そう思ったのと、肩を誰かに叩かれたのは同時だった。
一気に眩しくなくなり、目を開ける。
真っ先に映ったのは、満月を映したような黄金色の瞳だった。
でも、その瞳の模様が、目の前のひとが、人ではないことを示していた。
「……あく、ま!?」
私、召喚できたの?
安堵するよりも先に、その姿形で、言葉が詰まる。
その悪魔は、人の形をしていた。
悪魔は、下位悪魔は人の形を取らない。
悪魔が人の形をとるとしたら、それは上位悪魔だけ。
それに待って。
この黄金色の瞳に、燃え盛る炎のような真っ赤な髪。
顔だって、どこからどう見ても、彫像のように美しい。美しすぎて、恐怖を覚えるほどに。
「……原初の悪魔、アザグリール」
そう。
悪魔の始まりとも言われる、最も力の強い悪魔、その伝承の通りの姿だった。
震える声で、その名を呼ぶと、アザグリールは首を傾げた。
「俺の名を呼ぶとは、豪胆か、世間知らずか」
そう言って、黄金色の瞳を細め、私を見つめーー。
「……!?」
途端に、顔を真っ赤にして俯いた。
怒った?
こんな小娘に喚ばれたなんて、許せないわよね。
というか、そもそも、教師たちはどうしたんだろう……。
「え?」
召喚陣を囲んでいた教師たちは、目を見開いたまま固まっていた。
その言葉通り、まるで石になったかのように表情も動かない。
「ドルシャ先生!? 学園長!?」
近くにいた先生や学園長を揺さぶったけれど、びくともしなかった。
「あぁ、騒ぐな。……いえ、騒がないで」
アザグリールは、顔をあげると、私に近寄った。
「時を止めているだけです」
そうなんだ、それは安心……安心なのかしら?
「ナツ」
悪魔はまだ赤い顔で、私の手を取った。
「その名は、あなたの本当の名ではありませんね?」
「……っ」
悪魔召喚師には、二つ、名前が与えられる。
一つは、本名。
そしてもう一つは、あだ名だ。
なんで、あだ名があるのかと言うとーー。
「教えていただいても?」
悪魔に魂を取られないようにするためだ。
通常、下位悪魔は、魔力しか代償には貰わない。魂を代償とする、上位悪魔を誤って召喚してしまった際の、セーフティだ。
だから、ナツ、は私の本名ではない。
「……」
唇を噛み締める。
「あぁ、そんなに噛むと跡になってしまいますよ」
そう言って、白く細い指が私の唇を撫でる。
「ふふ。俺から無理やり言わせることもできますが?」
「……ナツネよ」
今、教師とは別の声が聞こえたような。
でも眩しすぎて、目を開けられない。
「本来なら、殺すところだが……」
こ、こここここころす!!?
「……娘、目を開けろ」
娘?
もしかして……、私のこと?
そう思ったのと、肩を誰かに叩かれたのは同時だった。
一気に眩しくなくなり、目を開ける。
真っ先に映ったのは、満月を映したような黄金色の瞳だった。
でも、その瞳の模様が、目の前のひとが、人ではないことを示していた。
「……あく、ま!?」
私、召喚できたの?
安堵するよりも先に、その姿形で、言葉が詰まる。
その悪魔は、人の形をしていた。
悪魔は、下位悪魔は人の形を取らない。
悪魔が人の形をとるとしたら、それは上位悪魔だけ。
それに待って。
この黄金色の瞳に、燃え盛る炎のような真っ赤な髪。
顔だって、どこからどう見ても、彫像のように美しい。美しすぎて、恐怖を覚えるほどに。
「……原初の悪魔、アザグリール」
そう。
悪魔の始まりとも言われる、最も力の強い悪魔、その伝承の通りの姿だった。
震える声で、その名を呼ぶと、アザグリールは首を傾げた。
「俺の名を呼ぶとは、豪胆か、世間知らずか」
そう言って、黄金色の瞳を細め、私を見つめーー。
「……!?」
途端に、顔を真っ赤にして俯いた。
怒った?
こんな小娘に喚ばれたなんて、許せないわよね。
というか、そもそも、教師たちはどうしたんだろう……。
「え?」
召喚陣を囲んでいた教師たちは、目を見開いたまま固まっていた。
その言葉通り、まるで石になったかのように表情も動かない。
「ドルシャ先生!? 学園長!?」
近くにいた先生や学園長を揺さぶったけれど、びくともしなかった。
「あぁ、騒ぐな。……いえ、騒がないで」
アザグリールは、顔をあげると、私に近寄った。
「時を止めているだけです」
そうなんだ、それは安心……安心なのかしら?
「ナツ」
悪魔はまだ赤い顔で、私の手を取った。
「その名は、あなたの本当の名ではありませんね?」
「……っ」
悪魔召喚師には、二つ、名前が与えられる。
一つは、本名。
そしてもう一つは、あだ名だ。
なんで、あだ名があるのかと言うとーー。
「教えていただいても?」
悪魔に魂を取られないようにするためだ。
通常、下位悪魔は、魔力しか代償には貰わない。魂を代償とする、上位悪魔を誤って召喚してしまった際の、セーフティだ。
だから、ナツ、は私の本名ではない。
「……」
唇を噛み締める。
「あぁ、そんなに噛むと跡になってしまいますよ」
そう言って、白く細い指が私の唇を撫でる。
「ふふ。俺から無理やり言わせることもできますが?」
「……ナツネよ」
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