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頭の中に浮かぶひと
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花奏師であるべきひと……。
「…………勿体無いお言葉です」
自分から、胸を張って聖花と関われる立場を手放した私には、身に余るほど。
「まあ、あと五日もあるもの! ……ゆっくり考えて。私の予想では、あなたはきっと、聖花から離れられないと思うわ」
そう言うと、花奏師長は、手を離した。
「そういえば、陛下に報告するのよね?」
「……はい」
頷く。確か、場所はレガレス陛下の部屋だった。
「私は、聖花たちの様子を見て回るから、報告は頼んだわ」
「わかりました」
ひらひらと手を振った花奏師長に手を振り返して、聖花たちの前から去る。
期間はあと、五日あるから、さよならは言わなかった。
◇◇◇
レガレス陛下の居室に向かうと、衛兵たちもすんなり通してくれた。
どうやら、予め、話を通してくれていたらしい。
何やら衛兵に期待のこもった眼差しを向けられたのは、気のせいかしら。
首を傾げつつ、部屋の中に入る。
「失礼致します」
「あぁ、終わったんだね」
レガレス陛下は、私に気づくと、何かの書類を見ていた、顔を上げた。
向かい合わせのソファに座るように言われたので、座る。
「聖花は、どうだった?」
「はい。……少し元気になりました」
少なくとも、もう、萎れてはいなかった。
「そうか、……良かった」
レガレス陛下が安心したように、微笑む。
「……はい」
本当に、良かった。
聖花が枯れてしまうなんてことあってはならないものね。
「……ところで」
「? はい」
なんだろう。
「君は、どうしてこの部屋に?」
「……え?」
それは、もちろん、花奏師の仕事が終わったら、レガレス陛下の部屋に来て欲しいと言われたからだ。
「報告する場所は、こちらではなかったですか……?」
聞き間違えたのかしら。
でも、それにしてもすんなり衛兵も通してくれたけれど。
「……いや、間違い無いよ」
「……?」
つまり、どういうこと?
私の疑問が伝わったのか、レガレス陛下は、苦笑した。
「私が聞きたかったのは、『男の部屋』に、なぜ、一人で来たのか、ということだ」
「……!」
はしたない、常識がない女、だと思われたってことかしら。でも、仕事の報告に行くだけだし、花奏師長はまだ残るって言ってたし。それとも、一度自室に戻って、ユグと一緒にくれば良かった? でも、聖花にかかわる事は、ユグには聞かせられない。
「……それは」
唇を噛む。自分の浅慮さに、呆れていた。
「……冗談だ。君は、私が指定したから来ただけだろう?」
レガレス陛下はそう言うと、ソファから立ち上がった。
「……だが」
そして、私が座っているソファの前まで来ると、壁に手をついた。
「私は、君を〈運命〉にと望んでいる」
「……はい」
それは、昨日言われたから知っている。
「もっと有体に言えば、君が好きだ。君に恋をしている」
「!!」
マーガレット様に向けていたのと同じ、甘い声音で、レガレス陛下は続ける。
「……だから、あまり隙を見せすぎないで。勘違いしたくなる」
……勘違い。
「君も、まだ私を好いてくれているのだと」
「!?」
まだ、ってなに?
私は、レガレス陛下に告白したことなんて、一度も……。
「すまない。君がいなくなった後、マーガレットから聞いた」
「……え」
血の気が引く。
マーガレット様は、私の気持ちなんか知らないと思っていた。
でも、知っていたんだ。
知っていて……思い出を乗っ取ろうとした。
「……マーガレット様が」
「彼女のことは、もう気にしなくていい。罪状が、確定したら――処罰を受ける」
気にしなくていいと言われても……。
「レガレス陛下は……気にならないのですか? だって、あんなに――」
「マーガレットをラファリアだと勘違いしていたからだ。でも、今の私には真実がわかった。だから、もう、私も気にしていない」
「……」
考えて俯いた、私の顎にレガレス陛下は触れた。
「……え」
誓約書で、私に触れられないはずでは……?
「ひとつ、言い忘れていた。そのローブには魔法がもう一つかけられている」
レガレス陛下が微笑む。
「こうして、君に触れても、触れてないものと判断される」
そう言いながら、ゆっくりと顔が近づく。
「!?」
慌てて距離を取ろうとしたものの、顎に触れられていて、距離が取れない。
その間もレガレス陛下の顔は、近づき続ける。
……どうしよう!?
なぜだか、頭の中にガロンさんの顔が浮かぶ。
……助けて。助けて、ガロンさん。
――チリン。
「…………勿体無いお言葉です」
自分から、胸を張って聖花と関われる立場を手放した私には、身に余るほど。
「まあ、あと五日もあるもの! ……ゆっくり考えて。私の予想では、あなたはきっと、聖花から離れられないと思うわ」
そう言うと、花奏師長は、手を離した。
「そういえば、陛下に報告するのよね?」
「……はい」
頷く。確か、場所はレガレス陛下の部屋だった。
「私は、聖花たちの様子を見て回るから、報告は頼んだわ」
「わかりました」
ひらひらと手を振った花奏師長に手を振り返して、聖花たちの前から去る。
期間はあと、五日あるから、さよならは言わなかった。
◇◇◇
レガレス陛下の居室に向かうと、衛兵たちもすんなり通してくれた。
どうやら、予め、話を通してくれていたらしい。
何やら衛兵に期待のこもった眼差しを向けられたのは、気のせいかしら。
首を傾げつつ、部屋の中に入る。
「失礼致します」
「あぁ、終わったんだね」
レガレス陛下は、私に気づくと、何かの書類を見ていた、顔を上げた。
向かい合わせのソファに座るように言われたので、座る。
「聖花は、どうだった?」
「はい。……少し元気になりました」
少なくとも、もう、萎れてはいなかった。
「そうか、……良かった」
レガレス陛下が安心したように、微笑む。
「……はい」
本当に、良かった。
聖花が枯れてしまうなんてことあってはならないものね。
「……ところで」
「? はい」
なんだろう。
「君は、どうしてこの部屋に?」
「……え?」
それは、もちろん、花奏師の仕事が終わったら、レガレス陛下の部屋に来て欲しいと言われたからだ。
「報告する場所は、こちらではなかったですか……?」
聞き間違えたのかしら。
でも、それにしてもすんなり衛兵も通してくれたけれど。
「……いや、間違い無いよ」
「……?」
つまり、どういうこと?
私の疑問が伝わったのか、レガレス陛下は、苦笑した。
「私が聞きたかったのは、『男の部屋』に、なぜ、一人で来たのか、ということだ」
「……!」
はしたない、常識がない女、だと思われたってことかしら。でも、仕事の報告に行くだけだし、花奏師長はまだ残るって言ってたし。それとも、一度自室に戻って、ユグと一緒にくれば良かった? でも、聖花にかかわる事は、ユグには聞かせられない。
「……それは」
唇を噛む。自分の浅慮さに、呆れていた。
「……冗談だ。君は、私が指定したから来ただけだろう?」
レガレス陛下はそう言うと、ソファから立ち上がった。
「……だが」
そして、私が座っているソファの前まで来ると、壁に手をついた。
「私は、君を〈運命〉にと望んでいる」
「……はい」
それは、昨日言われたから知っている。
「もっと有体に言えば、君が好きだ。君に恋をしている」
「!!」
マーガレット様に向けていたのと同じ、甘い声音で、レガレス陛下は続ける。
「……だから、あまり隙を見せすぎないで。勘違いしたくなる」
……勘違い。
「君も、まだ私を好いてくれているのだと」
「!?」
まだ、ってなに?
私は、レガレス陛下に告白したことなんて、一度も……。
「すまない。君がいなくなった後、マーガレットから聞いた」
「……え」
血の気が引く。
マーガレット様は、私の気持ちなんか知らないと思っていた。
でも、知っていたんだ。
知っていて……思い出を乗っ取ろうとした。
「……マーガレット様が」
「彼女のことは、もう気にしなくていい。罪状が、確定したら――処罰を受ける」
気にしなくていいと言われても……。
「レガレス陛下は……気にならないのですか? だって、あんなに――」
「マーガレットをラファリアだと勘違いしていたからだ。でも、今の私には真実がわかった。だから、もう、私も気にしていない」
「……」
考えて俯いた、私の顎にレガレス陛下は触れた。
「……え」
誓約書で、私に触れられないはずでは……?
「ひとつ、言い忘れていた。そのローブには魔法がもう一つかけられている」
レガレス陛下が微笑む。
「こうして、君に触れても、触れてないものと判断される」
そう言いながら、ゆっくりと顔が近づく。
「!?」
慌てて距離を取ろうとしたものの、顎に触れられていて、距離が取れない。
その間もレガレス陛下の顔は、近づき続ける。
……どうしよう!?
なぜだか、頭の中にガロンさんの顔が浮かぶ。
……助けて。助けて、ガロンさん。
――チリン。
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