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一面の

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 声が、する。
 その声に、導かれるように、目を開けた。
 目を開けた先にあったのは、黒い世界で。

 でも、完全な闇じゃない。

 遠くにぼんやり、光が見えた。

「……ずっと」

 ずっと?

 見知らぬ声。でも、不思議と怖いとは思わない。

「ずっと、どうしたの?」
 私は光に向かって歩き出しながら、声に尋ねた。

「ずっと、ずっと。……会いた、かった」
 その言葉通り、待ち焦がれている声。

「……誰に?」
 尋ねながらも、足は、止めない。

「……あなたに」

 私に?
 私を、そんなに望んでくれる人なんて、いたかしら。
 でも、このまま進めば、わかる気がする。

「ずっと、……会いたかったの」
「……ありがとう?」

 会いたかったとこれほど言われて悪い気はしない。とりあえず、お礼を言いつつ、歩みを進める。

「……待ってたの。信じて、待ってた」

 まるで、子供みたいに純粋な、その言葉に、なぜだか胸が痛くなる。

「あなたなら、来てくれるって。……待ってたの」
「もうすぐ、つくわ」

 私は、だんだんと駆け足になりながら、光に向かって突き進む。

 予感が、していた。
 この先に、あるのはきっと……。

「待ってたの、ラファリア」

 真っ白に輝く光。
 その光を抜けた先には、一面の——。

「……あぁ」

 その美しさとかけがえのなさに、思わず、崩れ落ちかけたとき。


「……様!!!!! ラファリア様!!!!!」
「!?!?!?」


 意識が急に浮上する。

「……っは」

 目を開けると、心配そうな顔が目の前にあった。

「……ユグ?」
「……はい、ラファリア様」

 ユグは、私の頬に触れた。

「……良かった。お返事がなかったので、勝手ながら、浴室に入らせていただきました」
「……あ」

 そうだ、私は、今まで何をしていたのだったかしら。

 なんだか、今日は色々あって、疲れて、それで、お風呂に入っていたのよね。


 段々と、意識がはっきりしてくる。


「……眠られていたようですが、大丈夫ですか?」
「……はい。心配をかけてごめんなさい。疲れていたようです」

 温かかったはずのお湯は、少し冷たくなっていた。

 ……良かった。
 ユグが起こしに来てくれなかったら、風邪を引いてしまっていたわ。

「ラファリア様」

 ユグはまだ心配そうに私を見つめている。

「……今日は、早めに寝ることにします。起こしてくれて、ありがとう」

 微笑んで見せると、ようやく、ユグも息を吐き出した。

「いいえ、お風呂から上がられますか?」
「……はい。そうすることにします」

 ユグに手伝ってもらいながら、浴槽から出て、水分を拭き取り、服を着る。

 髪を乾かしてもらいながら、私は先ほどの夢を思い出していた。
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