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嗚咽
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花奏師の試験を、マーガレット様は、私の歌声で突破したなら。
その魔道具を使って今までは聖花に歌を聴かせていたのだろう。それで、今まで、マーガレット様の担当の区画の聖花は枯れなかったのに、なぜ私が担当していた区画は枯れてしまったのか。
私の歌声が、力不足だった?
「そうだ、それを話していなかったな」
レガレス陛下は頷くと、先ほどの萎れた聖花を見せた。
「花奏師長の見解によると、君の担当の区画の聖花は、『本物の君』の演奏を聴いていたからこそ、枯れたようだ」
「……」
ということは、やっぱり私のせい?
ぎゅっと、また、手をきつく握りしめる。
「あぁ、違うよ、君のせいじゃない。……聖花たちに君は歌を聴かせていただろう? その本物の歌と録音された歌の違いに聖花たちが気づいたんだ」
録音された歌の違いに気づいた……?
「不思議そうな顔をしているね。もう一度、再生しようか」
レガレス陛下は、ネックレスに触れた。
すると、流れ出す、私の歌。
その歌をしばらく聴くと……レガレス陛下の手の中にあった聖花だったものが、更に萎れた。
「!?」
「こういうわけだ。気に入っている君の歌の偽物を聴かされたのが、気に食わなかったんだろう」
気に入っている……アギノも聖花は私に香りをつけていたっていってたものね。
「花奏師長によれば、君自身の歌であれば、元に戻るのでは、とのことで、今回君を呼び寄せさせてもらった」
「……そう、だったんですね」
でも、私が意図したことではないとはいえ、私の歌の録音で聖花を枯らしてしまうなんて。
とても……悲しい。
「そんな顔をしないで」
レガレス陛下は立ち上がると、私の目の前まで来て、跪いて、私の顔を覗き込んだ。
「でも……」
「君の歌は素晴らしかったよ。実際、君の本当の歌を聴いていない、マーガレットが担当していた区画は元気なままだ」
「でも、私が担当した区画の聖花は……」
聖花にお別れも言えなかったのに。
「それを君がまた咲かせるんだ。ほら、歌ってみて」
レガレス陛下は、手を広げて、枯れた聖花を見せる。
「でも、もっとひどくなったら……」
私は後悔してもしきれないだろう。
「そんなことにはならないよ」
強く断言する朝焼け色の瞳。
その瞳に呑まれないように、私は目を閉じた。
今までのことを思い出す。
初めて出会った聖花のことを、花奏師の試験の時の聖花のことを、そしてさよならもいえなかった私の聖花のことを。
「……わかり、ました」
私は、聖花が好きだ。
だから、やっぱり聖花には美しく咲いていて欲しい。もう私がそばにいられなくとも。
そして、歌い始めた。
曲は、一番大好きな曲。初めて、聖花には歌ったあの歌だ。
本来なら、聖花に捧げる曲を聴けるのは、聖花だけだけど。
レガレス陛下は、竜王だから、大丈夫だ。
聖花に歌を捧げる。
どうか、私の大好きな聖花が、また輝きを取り戻しますように。そう願って。
「……」
歌い終わり、目を開ける。
「……あ」
先ほどの姿とは違い、少しだけ元気がないくらいの聖花になっていた。まだ輝きは少ないけれど、それでも。
「……よ、かっ」
世界が滲む。
ごめんね、ごめんなさい。
さよならも告げずにいなくなって、ごめんなさい。
私の歌を聴いてくれてありがとう。
そう直接言葉で伝えたいのに、言葉にならず、漏れたのは嗚咽だった。
その魔道具を使って今までは聖花に歌を聴かせていたのだろう。それで、今まで、マーガレット様の担当の区画の聖花は枯れなかったのに、なぜ私が担当していた区画は枯れてしまったのか。
私の歌声が、力不足だった?
「そうだ、それを話していなかったな」
レガレス陛下は頷くと、先ほどの萎れた聖花を見せた。
「花奏師長の見解によると、君の担当の区画の聖花は、『本物の君』の演奏を聴いていたからこそ、枯れたようだ」
「……」
ということは、やっぱり私のせい?
ぎゅっと、また、手をきつく握りしめる。
「あぁ、違うよ、君のせいじゃない。……聖花たちに君は歌を聴かせていただろう? その本物の歌と録音された歌の違いに聖花たちが気づいたんだ」
録音された歌の違いに気づいた……?
「不思議そうな顔をしているね。もう一度、再生しようか」
レガレス陛下は、ネックレスに触れた。
すると、流れ出す、私の歌。
その歌をしばらく聴くと……レガレス陛下の手の中にあった聖花だったものが、更に萎れた。
「!?」
「こういうわけだ。気に入っている君の歌の偽物を聴かされたのが、気に食わなかったんだろう」
気に入っている……アギノも聖花は私に香りをつけていたっていってたものね。
「花奏師長によれば、君自身の歌であれば、元に戻るのでは、とのことで、今回君を呼び寄せさせてもらった」
「……そう、だったんですね」
でも、私が意図したことではないとはいえ、私の歌の録音で聖花を枯らしてしまうなんて。
とても……悲しい。
「そんな顔をしないで」
レガレス陛下は立ち上がると、私の目の前まで来て、跪いて、私の顔を覗き込んだ。
「でも……」
「君の歌は素晴らしかったよ。実際、君の本当の歌を聴いていない、マーガレットが担当していた区画は元気なままだ」
「でも、私が担当した区画の聖花は……」
聖花にお別れも言えなかったのに。
「それを君がまた咲かせるんだ。ほら、歌ってみて」
レガレス陛下は、手を広げて、枯れた聖花を見せる。
「でも、もっとひどくなったら……」
私は後悔してもしきれないだろう。
「そんなことにはならないよ」
強く断言する朝焼け色の瞳。
その瞳に呑まれないように、私は目を閉じた。
今までのことを思い出す。
初めて出会った聖花のことを、花奏師の試験の時の聖花のことを、そしてさよならもいえなかった私の聖花のことを。
「……わかり、ました」
私は、聖花が好きだ。
だから、やっぱり聖花には美しく咲いていて欲しい。もう私がそばにいられなくとも。
そして、歌い始めた。
曲は、一番大好きな曲。初めて、聖花には歌ったあの歌だ。
本来なら、聖花に捧げる曲を聴けるのは、聖花だけだけど。
レガレス陛下は、竜王だから、大丈夫だ。
聖花に歌を捧げる。
どうか、私の大好きな聖花が、また輝きを取り戻しますように。そう願って。
「……」
歌い終わり、目を開ける。
「……あ」
先ほどの姿とは違い、少しだけ元気がないくらいの聖花になっていた。まだ輝きは少ないけれど、それでも。
「……よ、かっ」
世界が滲む。
ごめんね、ごめんなさい。
さよならも告げずにいなくなって、ごめんなさい。
私の歌を聴いてくれてありがとう。
そう直接言葉で伝えたいのに、言葉にならず、漏れたのは嗚咽だった。
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