上 下
57 / 74

嗚咽

しおりを挟む
 花奏師の試験を、マーガレット様は、私の歌声で突破したなら。

 その魔道具を使って今までは聖花に歌を聴かせていたのだろう。それで、今まで、マーガレット様の担当の区画の聖花は枯れなかったのに、なぜ私が担当していた区画は枯れてしまったのか。

 私の歌声が、力不足だった?

「そうだ、それを話していなかったな」
 レガレス陛下は頷くと、先ほどの萎れた聖花を見せた。


「花奏師長の見解によると、君の担当の区画の聖花は、『本物の君』の演奏を聴いていたからこそ、枯れたようだ」
「……」

 ということは、やっぱり私のせい?

 ぎゅっと、また、手をきつく握りしめる。

「あぁ、違うよ、君のせいじゃない。……聖花たちに君は歌を聴かせていただろう? その本物の歌と録音された歌の違いに聖花たちが気づいたんだ」

 録音された歌の違いに気づいた……?

「不思議そうな顔をしているね。もう一度、再生しようか」

 レガレス陛下は、ネックレスに触れた。
 すると、流れ出す、私の歌。

 その歌をしばらく聴くと……レガレス陛下の手の中にあった聖花だったものが、更に萎れた。

「!?」
「こういうわけだ。気に入っている君の歌の偽物を聴かされたのが、気に食わなかったんだろう」

 気に入っている……アギノも聖花は私に香りをつけていたっていってたものね。


「花奏師長によれば、君自身の歌であれば、元に戻るのでは、とのことで、今回君を呼び寄せさせてもらった」

「……そう、だったんですね」

 でも、私が意図したことではないとはいえ、私の歌の録音で聖花を枯らしてしまうなんて。

 とても……悲しい。

「そんな顔をしないで」

 レガレス陛下は立ち上がると、私の目の前まで来て、跪いて、私の顔を覗き込んだ。

「でも……」
「君の歌は素晴らしかったよ。実際、君の本当の歌を聴いていない、マーガレットが担当していた区画は元気なままだ」

「でも、私が担当した区画の聖花は……」

 聖花にお別れも言えなかったのに。

「それを君がまた咲かせるんだ。ほら、歌ってみて」

 レガレス陛下は、手を広げて、枯れた聖花を見せる。

「でも、もっとひどくなったら……」

 私は後悔してもしきれないだろう。

「そんなことにはならないよ」

 強く断言する朝焼け色の瞳。

 その瞳に呑まれないように、私は目を閉じた。

 今までのことを思い出す。
 初めて出会った聖花のことを、花奏師の試験の時の聖花のことを、そしてさよならもいえなかった私の聖花のことを。

「……わかり、ました」


 私は、聖花が好きだ。

 だから、やっぱり聖花には美しく咲いていて欲しい。もう私がそばにいられなくとも。


 そして、歌い始めた。
 曲は、一番大好きな曲。初めて、聖花には歌ったあの歌だ。

 本来なら、聖花に捧げる曲を聴けるのは、聖花だけだけど。
 レガレス陛下は、竜王だから、大丈夫だ。

 聖花に歌を捧げる。

 どうか、私の大好きな聖花が、また輝きを取り戻しますように。そう願って。

「……」


 歌い終わり、目を開ける。

「……あ」

 先ほどの姿とは違い、少しだけ元気がないくらいの聖花になっていた。まだ輝きは少ないけれど、それでも。

「……よ、かっ」

 世界が滲む。   
 
 ごめんね、ごめんなさい。
 さよならも告げずにいなくなって、ごめんなさい。

 私の歌を聴いてくれてありがとう。

 そう直接言葉で伝えたいのに、言葉にならず、漏れたのは嗚咽だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

竜王陛下の番……の妹様は、隣国で溺愛される

夕立悠理
恋愛
誰か。誰でもいいの。──わたしを、愛して。 物心着いた時から、アオリに与えられるもの全てが姉のお下がりだった。それでも良かった。家族はアオリを愛していると信じていたから。 けれど姉のスカーレットがこの国の竜王陛下である、レナルドに見初められて全てが変わる。誰も、アオリの名前を呼ぶものがいなくなったのだ。みんな、妹様、とアオリを呼ぶ。孤独に耐えかねたアオリは、隣国へと旅にでることにした。──そこで、自分の本当の運命が待っているとも、知らずに。 ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結済み】番(つがい)と言われましたが、冒険者として精進してます。

BBやっこ
ファンタジー
冒険者として過ごしていたセリが、突然、番と言われる。「番って何?」 「初めて会ったばかりなのに?」番認定されたが展開に追いつけない中、元実家のこともあり 早々に町を出て行く必要がある。そこで、冒険者パーティ『竜の翼』とともに旅立つことになった[第1章]次に目指すは? [おまけ]でセリの過去を少し! [第2章]王都へ!森、馬車の旅、[第3章]貿易街、 [第4章]港街へ。追加の依頼を受け3人で船旅。 [第5章]王都に到着するまで 闇の友、後書きにて完結です。 スピンオフ⬇︎ 『[R18]運命の相手とベッドの上で体を重ねる』←ストーリーのリンクあり 『[R18] オレ達と番の女は、巣篭もりで愛欲に溺れる。』短編完結済み 番外編のセリュートを主人公にパラレルワールド 『当主代理ですが、実父に会った記憶がありません。』  ※それぞれ【完結済み】

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

あなたの運命になりたかった

夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。  コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。 ※一話あたりの文字数がとても少ないです。 ※小説家になろう様にも投稿しています

異世界で狼に捕まりました。〜シングルマザーになったけど、子供たちが可愛いので幸せです〜

雪成
恋愛
そういえば、昔から男運が悪かった。 モラハラ彼氏から精神的に痛めつけられて、ちょっとだけ現実逃避したかっただけなんだ。現実逃避……のはずなのに、気付けばそこは獣人ありのファンタジーな異世界。 よくわからないけどモラハラ男からの解放万歳!むしろ戻るもんかと新たな世界で生き直すことを決めた私は、美形の狼獣人と恋に落ちた。 ーーなのに、信じていた相手の男が消えた‼︎ 身元も仕事も全部嘘⁉︎ しかもちょっと待って、私、彼の子を妊娠したかもしれない……。 まさか異世界転移した先で、また男で痛い目を見るとは思わなかった。 ※不快に思う描写があるかもしれませんので、閲覧は自己責任でお願いします。 ※『小説家になろう』にも掲載しています。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜

秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。 宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。 だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!? ※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

処理中です...