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おかえり
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聞き間違えるはずのない、その声は。
――一瞬で、あの日の記憶が蘇る。
『君、すごいね』
純粋に褒めてくれたその言葉の温かさも。
涙を拭ってくれたその指先も。
「……ラファリア様?」
ユグの言葉にはっとする。
そうだ、もう、六年前のことは過去のことだ。
それに、私は選ばれなかったのだから。
「はい、ユグ。……ええと」
目の前にいる人物はどこからどう見ても、アドルリア王国が国王、竜王レガレス陛下だった。でも、なぜ、レガレス陛下がここに?
迎えがくるとは言っていたけれど、レガレス陛下自ら出向くほど重要な案件だろうか。
「ラファリアと……ラファリアの侍女だな?」
「はい、陛下」
ひとまず、尋ねられたことに頷く。
「魔国からわざわざ呼び寄せてすまないな」
「いえ……」
近くに護衛が何人かいるのを確認しつつ、首を傾げる。
「ところで、今回の私に任された仕事は、『花奏師の引継ぎ』で間違いないでしょうか?」
「……あぁ、ひとつはそれで間違いない」
なんだ、そうなのね。
身構えすぎていたのかも。
これなら鈴の出番はなさそうね。
「ところで……いや、歩きながら話そうか」
レガレス陛下と並んで歩く。
一度は断ったけれど、その方が護衛がしやすいとのことで、押し切られた。
「急に、花奏師をやめたと聞いて、驚いたよ」
「……そうですね。そのせいで、こうしてご迷惑をおかけして申し訳ございません」
まさか、花奏師に引継ぎ作業があったなんて。
花奏師長は何も言ってなかったけれど、忘れてたのかしら。
「……こちらも不手際があったから、君が謝る必要はない」
「……ありがとうございます」
レガレス陛下は、ずっと何かを探るような瞳をしていた。
なぜだろう?
……そういえば。
「私の聖花の区画は、誰が担当することになったのですか?」
「今は……花奏師長が担当している」
「そうなのですね」
花奏師長だったなら、余計、引継ぎ作業なんていらない気がするけど。
「ところで……」
「? はい」
レガレス陛下が立ち止まった。
それにつられて、私も立ち止まる。
「綺麗な銀髪だが、君は、もともと、その髪色だったのか?」
「え――……」
綺麗、という言葉にときめく前に。
レガレス陛下のなぜか、泣き出しそうなその瞳が気になった。
「いえ……、もともとは金髪でした」
私の髪色が変わったのは、ちょうど四年前くらいのことだった。
でも、なぜそんなことを、気にするんだろう?
「……そうか」
レガレス陛下は、そっと視線を落とすと、再び歩き出した。
「君の瞳は、桃色なんだな」
「……? はい」
「瞳は、変わらなかったのか?」
「……そうですね」
私の瞳の色は、ずっと変わっていない。
というか、今更、瞳の色を気にされるって、私のことなんか、レガレス陛下は全く視界に入っていなかったのね。
まぁ、マーガレット様という愛しい人の友人、止まりだった私の扱いとしては当然かもしれないけれど。
……って、はっ! また暗くてじめじめしたことばかり考えてるわ。
いい加減、前を見ないと。
そのために、この国から出たのだし、魔国に行って少しは前向きになれたと思ってたのに。
戻った途端に湿っぽいことばかりじゃ、変わったとは言えないわ。
もっと、前向きにならなきゃ。
「……そうか。変わらなかったのか」
レガレス陛下のつぶやきは、なぜだか、まるで、濡れているように聞こえた。
「?」
さっきから、様子が変だわ。
ただの恋人の友人Bの私でもわかるほど、今日のレガレス陛下はおかしかった。
「あの、陛下……」
けれど、尋ねようとしたところで、城門までついてしまった。
ユグと一緒に転移したところが、思ったよりも城に近かったのだ。
「……ラファリア」
「はい」
レガレス陛下は、手を差し出した。
「……おかえり」
――一瞬で、あの日の記憶が蘇る。
『君、すごいね』
純粋に褒めてくれたその言葉の温かさも。
涙を拭ってくれたその指先も。
「……ラファリア様?」
ユグの言葉にはっとする。
そうだ、もう、六年前のことは過去のことだ。
それに、私は選ばれなかったのだから。
「はい、ユグ。……ええと」
目の前にいる人物はどこからどう見ても、アドルリア王国が国王、竜王レガレス陛下だった。でも、なぜ、レガレス陛下がここに?
迎えがくるとは言っていたけれど、レガレス陛下自ら出向くほど重要な案件だろうか。
「ラファリアと……ラファリアの侍女だな?」
「はい、陛下」
ひとまず、尋ねられたことに頷く。
「魔国からわざわざ呼び寄せてすまないな」
「いえ……」
近くに護衛が何人かいるのを確認しつつ、首を傾げる。
「ところで、今回の私に任された仕事は、『花奏師の引継ぎ』で間違いないでしょうか?」
「……あぁ、ひとつはそれで間違いない」
なんだ、そうなのね。
身構えすぎていたのかも。
これなら鈴の出番はなさそうね。
「ところで……いや、歩きながら話そうか」
レガレス陛下と並んで歩く。
一度は断ったけれど、その方が護衛がしやすいとのことで、押し切られた。
「急に、花奏師をやめたと聞いて、驚いたよ」
「……そうですね。そのせいで、こうしてご迷惑をおかけして申し訳ございません」
まさか、花奏師に引継ぎ作業があったなんて。
花奏師長は何も言ってなかったけれど、忘れてたのかしら。
「……こちらも不手際があったから、君が謝る必要はない」
「……ありがとうございます」
レガレス陛下は、ずっと何かを探るような瞳をしていた。
なぜだろう?
……そういえば。
「私の聖花の区画は、誰が担当することになったのですか?」
「今は……花奏師長が担当している」
「そうなのですね」
花奏師長だったなら、余計、引継ぎ作業なんていらない気がするけど。
「ところで……」
「? はい」
レガレス陛下が立ち止まった。
それにつられて、私も立ち止まる。
「綺麗な銀髪だが、君は、もともと、その髪色だったのか?」
「え――……」
綺麗、という言葉にときめく前に。
レガレス陛下のなぜか、泣き出しそうなその瞳が気になった。
「いえ……、もともとは金髪でした」
私の髪色が変わったのは、ちょうど四年前くらいのことだった。
でも、なぜそんなことを、気にするんだろう?
「……そうか」
レガレス陛下は、そっと視線を落とすと、再び歩き出した。
「君の瞳は、桃色なんだな」
「……? はい」
「瞳は、変わらなかったのか?」
「……そうですね」
私の瞳の色は、ずっと変わっていない。
というか、今更、瞳の色を気にされるって、私のことなんか、レガレス陛下は全く視界に入っていなかったのね。
まぁ、マーガレット様という愛しい人の友人、止まりだった私の扱いとしては当然かもしれないけれど。
……って、はっ! また暗くてじめじめしたことばかり考えてるわ。
いい加減、前を見ないと。
そのために、この国から出たのだし、魔国に行って少しは前向きになれたと思ってたのに。
戻った途端に湿っぽいことばかりじゃ、変わったとは言えないわ。
もっと、前向きにならなきゃ。
「……そうか。変わらなかったのか」
レガレス陛下のつぶやきは、なぜだか、まるで、濡れているように聞こえた。
「?」
さっきから、様子が変だわ。
ただの恋人の友人Bの私でもわかるほど、今日のレガレス陛下はおかしかった。
「あの、陛下……」
けれど、尋ねようとしたところで、城門までついてしまった。
ユグと一緒に転移したところが、思ったよりも城に近かったのだ。
「……ラファリア」
「はい」
レガレス陛下は、手を差し出した。
「……おかえり」
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