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告げるため

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「一週間、ですか?」
 なぜ、その期間、私がアドルリアに滞在する必要があるのだろう。
「あぁ。表向きの理由は、花奏師の引継ぎの件で、となっているが……」

 花奏師の仕事に引継ぎなんてない。
 机仕事なんてほぼないし、聖花に音楽を聞かせ、そのための自分のトレーニングが主な仕事だ。

「……妙、ですね」
「あぁ。俺もそう思う」

 もしかして、聖花に何かあった?

 でも、それなら、私じゃなくて、花奏師長が対応するだろうし。

「あなたは、いまや『闇獣の世話係だ』。つまり、この国では公爵ほどの地位がある」
「……はい」

 ガロンさんの瞳は、まっすぐに私を見つめていた。
「それに、私はあなたの味方だ。……だから、あなたが嫌なら、断ろう」
 つまり、私がどうしたいか、よね。

「私は――……」

 アドルリア王国側にどんな思惑があるにしろ、今は、アギノの世話係だ。だから、もう戻るべきじゃない。

 そう答えようとして、最後にまたね、と聖花に言ったことを思い出した。
「……」

 あの後悔は、きっと消えない。今、行ったところで、私は、辞めた花奏師だから、聖花の前に立つことも、演奏することもかなわないだろう。

「……ラファリア」

 静かな、声だった。

「ひとは、後悔を重ねる生き物だ。だから……それを軽くする機会があるのなら、掴んでもいいと俺は、思う」
「!」

 私の考えなんか、ガロンさんにはお見通しだった。
「でも、アギノに音楽を聞かせる世話係としての仕事は……」

 ガロンさんは、そっと鈴を指さした。

「『鈴』には、遠隔から音楽を届ける機能もある。もちろん、生の演奏に比べれば、効果は落ちるだろうが……一週間程度なら、問題ない」

 つまり、アドルリアに帰ってもいい……ってこと、よね。

「でも……」

 いいのかな。
 前に、アドルリアに帰るつもりがない、といったとき、ガロンさんは、決意に応える魔国であろう、と言ってくれた。
 その言葉を踏みにじることにならないかな。


「ラファリア、あなたの気持ちを優先してくれ。あなたが、花を見るたびに、悲しそうな瞳をしていたことに気づかないほど愚かじゃない」
「! ……わたし、わたし、は」

 きっと、心の半分を、あの中庭に置いてきてしまった。

「アドルリアに、行かせてください。花奏師としての私にさよならして、ちゃんと、闇獣の世話係、としての私だけになれるように」
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