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盲目

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(レガレス視点)
「……半日も」
 そう言われて、ベッドから起き上がり視線を窓の外へ向ける。
 日の高さを見るに、確かに、眠る前より、ずいぶん時間がたっていたようだ。

「はい。私、本当に、本当に心配で……ずっと付き添っていたんですよ」
 そうか、ありがとう。
「……聖花は?」

 !?
 自分の思った言葉と、口から出た言葉の相違に戸惑う。

 マーガレットも困惑した顔をしていた。
「……陛下?」
「いや……、仕事熱心な君が、そんなに長時間抜け出していいのか心配になって……」

 私の言葉に、まぁ、とマーガレットは微笑んだ。
「心配してくださり、ありがとうございます。……ですが、心配には及びませんわ。聖花には他の花奏師たちがおりますもの」
 でも、とマーガレットはそこで言葉を切り、私の頬に触れる。

「レガレス陛下の婚約者……は、私だけでしょう?」

 確かに……そうだな。
 マーガレットの言葉は、正しい。正しいように聞こえる。

「……」

「陛下?」

 無言になった私を、マーガレットは、不安げに緑の瞳を揺らして見つめる。

「……マーガレット、六年前のあの日のこと、君は憶えているか?」
 なぜか、急に確認したくなり、マーガレットを見つめ返した。
「はい、もちろんです」
 マーガレットは、大きく頷き、微笑んだ。

「六年前の私、聖花を見て……泣いてしまいましたね。でも、レガレス陛下、あなたはそんな私を笑わないでくれた」

 そうだ。
 やっぱり、君は間違いなく、あの日の君だ。

 何を不安に思う必要があっただろう。
 君は、確かに、そばにいるのに。

「そう、だったな」
「はい。……あら、陛下こそ、お忘れですか?」

 私たちが出会った思い出の日なのに。
 そういって、頬を膨らませたマーガレット。

 子供のように純真な、そのいつも通りの姿に、胸がじんわりと温かくなる。
「!!」

 ずきり、と頭が痛んだ。

「陛下?」
「いや……、まだ本調子ではないみたいだ」

 長時間眠ったとはいえ、薬もまだ飲んでいない。

「たいへん! すぐに、侍従をお呼びしますね」
 そういって、マーガレットが部屋を出て行った。

 自室に一人残された私は、もう一度、ベッドに背中を預け、息を吐いた。
 
……よかった。

 マーガレットを一瞬でも疑ってしまうなんて、全くよくないが。
 ――それでも、私は、間違っていないのだ。

 天井に見えるのは、先ほどと変わらず、初代竜王とその〈運命〉との恋物語。

 私とマーガレットもいつか、歴史に残るような、恋だといい。

 体調不良のせいか、かなり恋の熱に浮かされているのを感じながら、私は、そっと目を閉じた。
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