上 下
15 / 73

良き人

しおりを挟む
 今度こそアギノの部屋から完全に出て、廊下を歩きながら話をする。
 歩き度に、ちりん、と鈴が小さくなり、本当にアギノの世話係になったのだと、少し、くすぐったい。

「闇獣の世話係の仕事の都合上、勤務日数は、特別休暇や病傷休暇以外は、週7日。代わりに労働は、一日一曲演奏すれば終わりだ。まぁ、気が向けば、アギノの話し相手でもしてもらえれば助かる。給与は、以前提示したものでいくつもりだが……」

 ここまでで、不満や、不明点は? と尋ねられ、首を振る。

「いいえ。むしろ……好待遇すぎでは?」

 さっきの演奏だって、だいたい五分くらいだ。毎日働くといっても、一日の労働時間が、五分。それは、果たして、労働と言えるのかも微妙な気がする。

「そんなことはない。あなたなら、と思ってはいたが……アギノに気に入られる人材は貴重だからな」

 そう言って、ふっと微笑んだガロンさんは、あぁ、と付け加えた。

「アギノの世話係の間は、公爵と同程度の地位が保証される。政治的発言力もあるから望むなら議会にも参加……」
「!? い、いえ! 必要ありません」

 ここここ、公爵……? 
 王家の血も入っていないし、領地経営もしてないのに……?
 それに私は、もともとは他国の人間だ。

「それだけ、重要な立ち位置ということだ。だからこそ、鈴にも防御機能もつけてる」
 鈴は、安全ベルのような役割も果たすんだったわよね。

「わかりました。……精いっぱい努めます」
「そう気張らずとも良い。あなたがすでに日々努力しているのは、さっきの歌で十分わかった」

 そう言って微笑むとガロンさんは、扉の前で足を止めた。
「……ここがあなたの部屋だ。気に入ると良いのだが」

 ガロンさんに促されて、扉を開ける。

 部屋は一言で言い表すなら、とても豪華、だった。
 アドルリアにいたときだって、こんな豪華な部屋には住まわせてもらったことがない。
 公爵と同程度の地位……というのがわかる。

 思わず、ごくり、と息をのんでいると、ガロンさんは呼び鈴を鳴らした。
「はい」
 その音で、出てきたのは、綺麗な女性だ。金髪に、青の瞳が印象的だ。

「ユグ、こちら、ラファリア。ようやく決まった、闇獣の世話係になる女性だ。ラファリア、こちらは、ユグ。あなたの侍女となる女性だ」
「初めまして、ユグさん」
「初めまして、ラファリア様。私のことはどうか、ユグと」

 ユグは、そう言って深く腰をおった。
「わかりました。よろしくお願いします、ユグ」
「ユグ、あとのことは、頼んだ。……ああ、そうだ、ラファリア」

 ガロンさんは、去ろうとして……それから、私のバッジを指さした。
「それは、良き人にしかつけられない魔法がかかってる。……俺が何がいいたいか、わかるか?」
……良き人。マーガレット様のような純真さのない私が?
「あなたは、十分魅力的だということだ。もっと、自信を持っていい」
 そう言って私の頭をくしゃり、と撫でると、今度こそガロンさんは、去っていった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ままごとのような恋だった

恋愛 / 完結 24h.ポイント:241pt お気に入り:21

わがまま令嬢は、ある日突然不毛な恋に落ちる。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,050pt お気に入り:23

【連載版】婚約破棄ならお早めに

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:79,619pt お気に入り:3,398

妹の婚約者だと言う男性に、声をかけられまして

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:12

夫のかつての婚約者が現れて、離縁を求めて来ました──。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:397pt お気に入り:444

【完結】目覚めればあなたは結婚していた

恋愛 / 完結 24h.ポイント:134pt お気に入り:146

【完結】貴方の望み通りに・・・

恋愛 / 完結 24h.ポイント:553pt お気に入り:694

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:460

処理中です...