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恋の根拠

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 亮くんのこと、好きになりたいと思う。でも、なりたい、じゃだめだよね。好きだから、じゃないと。補習を受けながら、窓の外を見る。

 飛行機雲が目に眩しい。

 私の気持ちはどこにあるんだろう。

 お兄ちゃんと愛梨ちゃんが付き合い出したとき、胸が苦しかった。だから、私はお兄ちゃんのことがまだ好きだと気づいたけれど。私は、まだ、お兄ちゃんのことが好きなのかな。でも、亮くんとは一緒にいると、楽しいし安心する。それは、恋じゃないのだろうか。

 恋って、好きって難しいなぁ。


 夜。何だかセンチメンタルな気分になりながら、ベランダで星を眺めていると、ぽん、と肩を叩かれた。びっくりして、振り向くと、お酒くさいお父さんが立っていた。

 「よぉ、どうした朱里」
「お父さん」
「何か、悩み事か?」

 めちゃくちゃ、悩んでいる。でも、流石に高校生にもなって、恋愛相談を親にするのは気恥ずかしい。

 「いや、特に悩んでないよ!」
「そうかぁ? 朱里は、悩んでいるとき、よく、髪を触るクセがある」
えっ!? そうなの。全然気づかなかった。
「お前の母さんもよくしてた」
そうなんだ。もう私が小さい頃に亡くなって、記憶にないけれど。なんだか、血の繋がりを感じて、少し、嬉しいな。

 「だから、話してみないか?」
「……お父さんは、お義母さんのことをどういうときに、好きだと思う?」
「おっ、俺と沙織里さんとの馴れ初めか? あれは、俺が──」
「いや、馴れ初めは飽きるほど聞いたよ。そうじゃなくて、こう、好きだと感じる根拠というか……」
うーん、言葉で説明するのは難しいなぁ。

 「それなら、俺は、旨い物を食べたときに、真っ先に沙織里さんに食べさせたくなる。そういうときに、ああ、俺は沙織里さんのことが好きなんだなぁ、と思うよ」
「お父さんは食べるのと、飲むのが大好きだもんね」

 美味しい食べ物を食べたときか。

 「ありがとう、お父さん。そろそろ時間も遅いし、自分の部屋で寝ることにする」
「おう」
すると、お父さんが、ぽん、と私の頭の上に手をおいた。

 「お前がどんな選択をしても、父さんはお前の味方だからな」
「うん。ありがとう」

 自室に戻り、ベッドにもぐって考える。美味しい食べ物か。私の場合は、パフェだなぁ。パフェを食べたときに真っ先に食べさせたいのは──。真っ先に、一人、思い浮かんだ。彩月ちゃんだ。えっ!? 彩月ちゃん!? さ、彩月ちゃんは確かに親友だけど、えっ、私ってそういう意味で彩月ちゃんのこと好きだったの!?

 いやいやいやいや、彩月ちゃんは違うだろう。だって、彩月ちゃんと小塚くんが付き合ったとき、ちゃんと祝福できた。でも、ちょっと寂しかったけど。それは、あくまで友愛の範疇、だと思う。

 まあ、お父さん件は、一例として考えるとして。私は誰が好きなのかな。
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