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波乱

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 昨日から、お兄ちゃんと一言も話せてない。登校も別だったし。いや、そもそも登下校は別々にしよう、と提案したのは私なのだから、それは喜ぶべきことなのかもしれないけれど。もうすっかり、お兄ちゃんと登校することに慣れてしまった私は、何だか胸の辺りがもやもやとする。

 「おはよう、朱里ちゃん」
いつの間にか教室に着いていたみたいだ。思わずうつむいていた顔をあげると、亮くんがいた。

 「おはよう、亮くん。昨日は、ごめんね」
「ううん、俺は全然大丈夫だったけれど、あの後会長大丈夫だった? ケンカとかしてない?」

 ケンカ、かぁ。お兄ちゃんとしてるのは、ケンカ、なのかな。お兄ちゃんとケンカすることなんて滅多にないからよくわらない。

 「大丈夫じゃない、かも。お兄ちゃん、過保護だから、私に彼氏ができたことびっくりしてたみたいだし」
「……そっか。じゃあ、挨拶はもう少し落ち着いてからの方が良さそうだね」
「うん。ありがとう亮くん」

 まだ付き合って半月なのに、お兄ちゃんに挨拶してくれようとするなんて、亮くんは誠実だ。その誠実さに恥じないように、私もいい彼女になりたいな。そう思っていると、彩月ちゃんや小塚くんも到着し、休みの間に、亮くんの呼び方が、名字から私の名前になっていることをからかわれたりしているうちに、ホームルームの時間となった。




 放課後。生徒会室にいくと、何やら話し声がした。
「優、自棄になるなって! 優は、………………ことが……なんだろ!?」
「別に僕は、…………つもりはないよ」
「それなら、なんで!」

 途切れ途切れに聞こえるのは、どうやら、冴木先輩とお兄ちゃんの声のようだった。

 入り口の辺りで入っていいか悩んでいると、冴木先輩に私の存在を気付かれた。

 「! 朱里ちゃん!」
冴木先輩は、私の方へ駆け寄ってくる。
「さっきの、聞こえてた?」
「……少しだけ。お兄ちゃんとケンカでもしたんですか?」

 そういう私もお兄ちゃんと(おそらく)ケンカ中なんだけどね!

 「そっか。全部は聞こえてないのか。ケンカ……じゃないけど、似たようなもの、かも」
「珍しいですね」
お兄ちゃんと冴木先輩は基本的には仲良しだ。じゃれることはあっても、ケンカは少ない。どころか、初めてじゃない?

 お兄ちゃんの方に視線を向けると、つい、と視線を逸らされた。うっ。ケンカしてるからとはいえ、こういうあからさまなの、あんまりされたことないから、きついなぁ。

 と、他の生徒会の面々も集まりだしたので、冴木先輩との会話はそこで打ちきりとなった。




 「朱里ちゃん」
生徒会での仕事を終え、帰りの準備をしていると、愛梨ちゃんに声をかけられた。
「今日、よければ、お話ししない?」
そういえば、愛梨ちゃんに、お兄ちゃんとの仲を取り持つように、協力を頼まれてるんだった。今の私に何か有益な情報をもたらせるとは、思えないけれど。特に断る理由もないし。

 頷くと、愛梨ちゃんは弾けるような笑顔を見せた。


 喫茶店に入ると、相変わらず愛梨ちゃんは、お兄ちゃんについて語りだした。資料を渡したときに微笑んでくれたとか、今日も名前を名字だけど呼んでもらえたとか、恋する乙女らしい、微笑ましいものばかりだった。

 そんなことをひたすら聞かされていると、唐突に愛梨ちゃんは、話題を変えた。

 「そういえば、朱里ちゃん、田中と付き合ってるんだってね」
「う、うん」
まさか、隣のクラスにまでもう広まってるんだろうか。それは、少し、いや、かなり恥ずかしい。

 私が顔を真っ赤にして俯くと、愛梨ちゃんは、慌てて否定した。
「違う、違うよ。私はたまたま田中と同じ中学だから、情報が入ってきやすいだけ」
「そうなんだ」
へぇ。愛梨ちゃんと良くんは、同じ中学校に通ってたんだ。なんだか、意外だ。

 その後は、また、お兄ちゃんについての話に戻り、また、ひたすらお兄ちゃんのことについて、愛梨ちゃんは語っていた。

 そして。もうそろそろいい時間になったので、帰ろうか、というとき、愛梨ちゃんは私に感謝の言葉を述べた。
「朱里ちゃん、本当にありがとう!」
「わ、私はなにもしてないよ?」
結局、お兄ちゃんに好きな人がいることを愛梨ちゃんに伝えたくらいだ。協力って言っても、何もできていない。今日だって、お兄ちゃんの素晴らしさを永遠と語る愛梨ちゃんの話を聞いてただけだし。

 「ううん、これも全部、朱里ちゃんのおかげ」
そういって、愛梨ちゃんは弾けるような笑顔で、席を立った。

 そして頬を染めて、まるで、ついでのように、言ったのだ。

 



 「小鳥遊先輩と付き合うことになったの」






  「……え?」
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