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全部気のせい

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 冴木先輩と別れてから、体育館前に張ってあるクラス分けを確認する。ちなみに、私は一年二組で、ヒロイン──こと、中原愛梨なかはらあいりちゃんは、一年一組でクラスは別れた。これで、お兄ちゃんとヒロインの邪魔をする可能性もぐっとへったはずだ。

 そんなことを考えながら、入学式が行われる体育館の中に入ると、見知った声がした。

 「おはよう、朱里!」
振り返ると、彩月ちゃんが手を振っていた。藤堂彩月とうどうさつきちゃん、私の親友だ。ヒロインと自分の名前を確認することしかしていなかったけれど、彩月ちゃんも二組だったらしい。

 「彩月ちゃん、おはよう。もしかして、ストレートパーマかけた?」
「あっ、わかる? この高校はストパーはオッケーだから、かけてみたんだよね」
「似合ってるよ」

 ストレートパーマをかけた彩月ちゃんの髪はさらさらだ。いいなぁ、私は癖毛だから、真っ直ぐな髪に憧れる。私もかけてみようかなぁ。

 そんなことを、彩月ちゃんと話していると、入学式が始まる時間になったので、整列する。


 入学式は、つつがなく過ぎた。そして──。

 「生徒会会長、挨拶」
「はい」
お兄ちゃんが、壇上に上がる。すると、その瞬間、新入生たちが黄色い歓声をあげた。

 お兄ちゃんはもちろん、とてもかっこよく、良いことを話していたんだけど……。

 あれ? なんだか、機嫌悪くない?

 私の気のせいだろうか。お兄ちゃんはいつも通り爽やかに笑っているのに、何だか心なしか、目が笑っていないような……。

 そんなことを考えながら、お兄ちゃんの話を聞いていると、お兄ちゃんと目があった……気がする。

 「やば、私会長と目があっちゃった!」
「違うよー、私と目があったんだよ!」
「それにしても、会長の笑顔超よかった!」
なんていう会話も、入学式が終わったあと、女子生徒たちの間で繰り広げられていた。いつもなら、割って入って、お兄ちゃんは私と目があったんだから! なんて、するところだけど、今の私はそんな真似はしない。

 「朱里ー、教室いこ」
「うん!」
 目があったと思ったのも、笑ってないと思ったのも勘違いかな。みんな、お兄ちゃんの笑顔を絶賛していたし。

 第一、お兄ちゃんは、やっと付きまとっていた義妹から解放されたわけだし、不機嫌になる理由がないよね。


 「朱里、どうしたの?」
「ううん、全部私の気のせいだったみたい」

 それにしても、今日から高校生か。きっと新しい出会いもたくさんあるよね。もしかしたら、いつか素敵な彼氏ができたりして。なんて、期待に胸を膨らませながら、彩月ちゃんと教室に向かった。
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