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不思議な先輩

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お兄ちゃんが二階から降りてくる前に、朝食を素早くすませ、家を出る。お義母さんには、いつものようにお兄ちゃんを待たない私に不思議そうな顔をされたけれど、今日から高校生だから、一緒に登下校するのは、気恥ずかしいからやめることにした、と言えば、納得してくれた。

 高校までの道は、中学校と近いのでほぼ同じはずだけれど、一人で歩く学校までの道のりは、何だかいつもと違って見える。

 「あ、桜だ」
眩しい陽光に目を細めながら、頭上を見上げると、桜が枝を伸ばしていた。薄ピンク色の花がとても綺麗だ。

 こんな場所に、桜が植えてあったんだ。私って本当に、お兄ちゃんしか見えてなかったんだなぁ。そんな自分に反省しつつ、歩いていると、声をかけられた。

 「朱里ちゃん!」
「あ、冴木先輩。おはようございます」
おはよう、と爽やかに微笑んだのは、冴木智則さえきとものりさん。お兄ちゃんと同級生で、お兄ちゃんの親友だ。ちなみに、生徒会の副会長をしている。そして、漫画ではお兄ちゃんの恋のライバルになったりもする。

 「あれ、優はどうしたの?」
冴木先輩は、私の隣にお兄ちゃんがいないことを確認すると、不思議そうな顔をした。そんな冴木先輩に、今朝お義母さんにしたのと同じことを話すと、意外そうに眉をあげた。

 「ふぅん。あの優が、そんなこと許すとは思えないけど……」
許すもなにも私がずっと、お兄ちゃんに付きまとっていたのだ。その付きまといをやめただけのことだ。

 私がそう言うと、
「お兄ちゃん……?」
という呼び名が変わったことに冴木先輩は反応した。

 「もう、『優くん』は卒業することにしたんです。これからは正しく距離をとって妹になろうと思って」
「……そっかぁ、なるほど、そうなっちゃったかぁ」
お兄ちゃんにもそう言ったのだと、決意を語る私とは反対に、冴木先輩の顔色は悪い。

 「どうしたんですか?」
「……悪いことは言わないから、その『卒業』やめた方がいいと思うよ」

 何でだろう。お兄ちゃんは、私に付きまとわれずにすむし、私は前よりも視野が広がった気がするし、今のところいいところずくめだ。私が首をかしげると、冴木先輩は、大きくため息をついた。

 「……俺、入学式さぼろうかな」
「だめですよ、冴木先輩がいないと、新入生ががっかりします」
冴木先輩は、生徒会の中でも、副会長を務めている。会長をしているお兄ちゃんと同じで、中学にも伝わるほど二人はとても女子に人気があった。きっと、新入生のなかには、冴木先輩に会うのを楽しみにしている女子生徒がたくさんいるはずだ。

 「いや、うん。俺はその会長に今は会いたくないというか……」
? お兄ちゃんと喧嘩でもしたんだろうか。話を詳しく聞きたかったけれど、そこで校門の前についたため、冴木先輩とはお別れになった。
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