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第三章

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   三
 高柳君は説明を始めた。
 私たちがここ九院高校に入学して、間もなくのことである。
 ある日の夜、彼に電話がかかってきた。岸悟というクラスメイトからだった。
「彼は僕に相談してきた」
 高柳君は言う。その内容は奇妙なものだった。手紙──それもラブレターの送り先を間違えたというのだ。
 詳細はこうだ。
 彼は二人の女子と親しくしていた。名和美幸さんと葉山智子さんという。二人は五組のクラスメイト同士だが、岸君は四組。知り合ったのは入学直後のオリエンテーションだという。
三人の関係は最初から緊張を孕んでいた。三角関係である。明言はせずとも二人が岸君を好いているのは明らかで、また彼もそれは意識していた。「どちらかを選ばなくちゃ」という義務感は初めからあったという。
ある日、そのことで女子二人が喧嘩をした。
その時の険悪な空気が、岸君に「決断」を促した。もう限界だ、決めなくちゃ──。
それで彼はラブレターをしたためた。
彼が選んだのは智子さんの方である。放課後、彼はこっそり隙を見て、手紙を彼女の机に入れた。
ところが、夜になって気付いた。美幸さんと智子さんの机を取り違えていたのだ。間の抜けた話だが、彼もそれ程「てんぱって」いたのである。クラスが違うので、机の位置も完全には把握していなかったのだろう。
 ではなぜ、彼は高柳君に“相談”してきたのか。
岸君にはもう取り繕う時間がなかった。折悪しく、その日は彼の身近な親戚が一人亡くなっていたのだ。葬儀の手伝いをしなければならない。また彼の家から学校までは電車で数駅程の距離がある。今夜ちょっと抜けて学校に行くのは難しく、翌日も休むことになるだろう。もう手紙を入れ替える時間はない。だから相談したのだ。どうしよう──と。
「それで僕は協力をかって出た。単純な人助けのつもりだった」
 彼は、手紙の外見的な特徴と、それを入れた机の位置を聞いてすぐに出かけた。彼の家は学校から程近い。
だが外は大雨で、しかも雷まで鳴り出す始末。視界が利かないほどの悪天候の中、彼は雨合羽を羽織って自転車を漕いだという。
「そして僕はなんとか役目を果たした」
「お人好しなことね」
 それは正直な感想だった。だが彼らしい気もする。普段は愛想の欠片もない彼だが、実は律儀でまめな性格だ。お人好しという言葉は滑稽な程ぴったり当てはまっている。
「高柳は、ここでミッション・コンプリート。あとは問題ないはずだった」
 倉持君が、大げさに両手を拡げて見せた。
「だが翌日にトラブルが起きる。それに巻き込まれたのが俺だった」
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