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43. 異変
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清々しい朝の陽光がカフェの窓辺を照らし、菜々美はいつものようにカウンターでティーポットを磨いていた。朝一番に訪れた常連のエドワードがいつもの席に腰を下ろし、静かにティーカップを手に取っている。アリスとマークは、注文されたペストリーを運んだり、空いた席を片付けたりと、店内を忙しく動き回っていた。
「今日は賑やかですね。」アリスがテーブルを拭きながら声を弾ませる。
「最近は少し静かな日が続いていたけど、こうして常連さんたちが来てくれるのはありがたいわ。」菜々美は笑顔を浮かべながら、カウンター越しに店内を見渡した。
だが、その和やかな空気は昼を過ぎる頃に一変した。
昼下がり、扉を開けて入ってきたのは、見慣れない男たちだった。無骨な革の装いに身を包み、冷ややかな視線をカフェの中に投げかける。二人組の役人らしき彼らは、客席には目もくれず、カウンターに向かって一直線に歩み寄った。
「この店の責任者はどなたですか?」
厳しい口調で尋ねられた菜々美は、一瞬驚きながらも微笑みを浮かべて応対した。「私が責任者ですけど、何か御用でしょうか?」
一人の役人が腰から巻物を取り出し、広げながら言った。「この店で使用されているハーブについて、調査を命じられました。町の安全を守るため、必要な措置です。」
「調査……ですか?」菜々美の笑顔が一瞬固まる。「何か問題があったんでしょうか?」
「通報がありました。このカフェのハーブ畑で栽培されている植物に、人体に有害な成分を含むものが混じっている可能性があると。」
その場が一瞬で静まり返った。近くにいたアリスが驚きの表情で立ち尽くし、常連客たちも何事かとざわつき始める。
「そんな……うちのハーブ畑で問題があるなんて聞いたこともありません!」菜々美は動揺を隠せないながらも、毅然とした口調で返す。
しかし、役人は冷静な態度を崩さなかった。「それは調査してみなければ分かりません。今から畑を確認させていただきます。」
菜々美は迷った末に頷いた。「分かりました。案内します。」
カフェから少し離れた菜々美のハーブ畑は、朝露が残る土と青々とした葉の香りが漂う、平和そのものの場所だった。役人たちは厳しい表情のまま畑に足を踏み入れ、一つ一つのハーブを丁寧に調べ始めた。
アリスとマークもそばで見守る中、菜々美は胸に沸き上がる不安を押さえ込む。
「何も出ないはずだわ。私たちの育てたハーブに問題があるなんて……。」菜々美は小さく呟くが、その声は風に流されて消えた。
数十分後、一人の役人が畑の一角で何かを手に取り、仲間に合図を送った。
「これは……。問題のある植物だ。」役人はそう断言しながら、手にした小さな草を高く掲げた。
「えっ、それは……?」菜々美が駆け寄って見ると、それは見覚えのない植物だった。細長い葉を持ち、紫がかった小さな花を咲かせているが、菜々美が育てた覚えは一切なかった。
「これは有毒成分を含む可能性が高い植物だ。町の条例では栽培が禁止されている種類だよ。」
「待ってください!」菜々美は声を上げた。「そんな植物、私は見たこともありません!この畑に植えた覚えもないんです!」
「ですが、実際にここで見つかりました。」役人の声は冷たく、菜々美の抗議を一蹴するものだった。「この件については正式に報告し、必要な処置を講じます。それまではカフェで使用されるハーブの全てを凍結しなければなりません。」
菜々美の心に重いものがのしかかる。
その夜、菜々美はカフェの片隅でリュウとガイデンに状況を説明した。
「役人たちが見つけた植物、私には全く心当たりがないの。でも、それが本当に有毒だとしたら、どうしてうちの畑にあったのか……。」
リュウは険しい表情で腕を組み、「誰かが故意に植えたんじゃないのか?」と低い声で言った。
その言葉に、ガイデンが静かに首を振りながら反論した。「その可能性も考えられるけれど、それだけじゃないわ。こういう植物の種子は、風や動物によって運ばれることもあるの。」
菜々美は驚いたようにガイデンを見つめた。「風や動物……それでうちの畑に?」
「あり得るわ。」ガイデンはテーブルに軽く指を置きながら説明を続ける。「植物の種子はとても軽いものが多いし、遠くまで飛ばされることもある。特に畑の近くに似た植物が自然に生えている場所があれば、そこから飛んできた可能性も否定できない。」
「でも、近くでそんな植物を見た覚えはないわ。」菜々美は困惑した表情を浮かべた。「この辺りで有毒な植物が生えているなんて、聞いたことがないもの。」
「それは正しいかもしれないが、動物が絡んでいるとしたらどうだ?」リュウが口を挟んだ。「鳥や小動物が種子を運んで、たまたま畑に落とした可能性もある。」
「動物……。」菜々美は思わず窓の外に目を向けた。畑に訪れる小鳥やリスの姿が思い浮かぶ。「でも、それだけであんな場所に、しかも育つほど根付くものなのかしら?」
ガイデンが柔らかく微笑んだ。「自然の力は予測できないものよ。確率は低いかもしれないけれど、不可能ではないわ。」
「つまり、誰かが意図的に植えたわけじゃなくても、この状況は起こり得るってことか。」リュウがまとめるように言った。
「ええ。」ガイデンが頷く。「それでも確かめる必要はあるわね。畑の周囲を詳しく調べてみる価値があると思う。」
菜々美は二人の意見に耳を傾けながら、胸の中に少しだけ希望が湧いてくるのを感じた。故意の犯行でない可能性があるなら、少しでも状況を改善する手がかりになるかもしれない。
「明日、畑の周りを見てみるわ。何か手掛かりが見つかるといいけど……。」
「俺も手伝う。」リュウは立ち上がりながら言った。「不自然な場所に同じ植物が生えていないか、探してみようぜ。」
「私も同行するわ。」ガイデンは穏やかな口調ながらも眉を寄せていた。「自然の痕跡は注意深く探せば見つかることもあるけれど……今回はそれだけでは説明がつかない部分も多いわ。」
菜々美は二人に感謝の笑みを向けながらも、胸の中に引っかかるものを感じていた。「ありがとう。でも、本当に自然に運ばれてきたのか、それとも誰かが意図的に……。」
リュウは腕を組み、厳しい表情を浮かべた。「自然のせいって話もあるかもしれないが、何かが怪しいのは確かだ。それに、こんなタイミングでこんな噂が立つのは偶然じゃない気がする。」
「その可能性は高いわね。」ガイデンも考え込むように頷いた。「誰かが何か意図を持って動いているとしたら、目的が何なのかを考える必要があるわ。」
「分からない。でも、今はとにかく信じてもらうしかないわ。」菜々美は声を震わせながら言った。「私たちが何もしていないって。」
翌朝になると、状況はさらに悪化していた。町の広場では、すでに噂が広まっていた。「菜々美のカフェで危険なハーブが使われている」という話は人々の間で驚くほど早く伝わり、さまざまな憶測を呼んでいた。
「なんでも、有毒な植物を育てているらしいぞ。」
「この間行ったけど、なんだか気分が悪くなったのはそのせいかもしれない。」
「しばらくあの店には行かない方がいいな。」
噂を耳にした常連客たちの中には、カフェを避けるようになる者も出てきた。
数日後、カフェはいつもより静かだった。客席の半分以上が空き、アリスとマークは不安げな表情を隠せない。
「菜々美さん、これってどうなっちゃうんですか?」アリスが心配そうに尋ねる。
「分からない。でも、私たちがやるべきことは変わらないわ。」菜々美は微笑もうとしたが、目には疲れが浮かんでいた。「このカフェで出しているものが安全であることを証明する。それだけよ。」
その言葉に、アリスとマークも小さく頷いた。
菜々美はカウンター越しにふと窓の外を見つめた。心の奥底では、誰かが意図的に仕掛けたものだという疑念が強くなっていた。だが、それを証明するには何か具体的な手掛かりが必要だ。
「負けないわ。」菜々美は心の中で自分に言い聞かせるように呟いた。
この不安と困難が、さらなる波乱の始まりに過ぎないことを、彼女はまだ知らなかった。
「今日は賑やかですね。」アリスがテーブルを拭きながら声を弾ませる。
「最近は少し静かな日が続いていたけど、こうして常連さんたちが来てくれるのはありがたいわ。」菜々美は笑顔を浮かべながら、カウンター越しに店内を見渡した。
だが、その和やかな空気は昼を過ぎる頃に一変した。
昼下がり、扉を開けて入ってきたのは、見慣れない男たちだった。無骨な革の装いに身を包み、冷ややかな視線をカフェの中に投げかける。二人組の役人らしき彼らは、客席には目もくれず、カウンターに向かって一直線に歩み寄った。
「この店の責任者はどなたですか?」
厳しい口調で尋ねられた菜々美は、一瞬驚きながらも微笑みを浮かべて応対した。「私が責任者ですけど、何か御用でしょうか?」
一人の役人が腰から巻物を取り出し、広げながら言った。「この店で使用されているハーブについて、調査を命じられました。町の安全を守るため、必要な措置です。」
「調査……ですか?」菜々美の笑顔が一瞬固まる。「何か問題があったんでしょうか?」
「通報がありました。このカフェのハーブ畑で栽培されている植物に、人体に有害な成分を含むものが混じっている可能性があると。」
その場が一瞬で静まり返った。近くにいたアリスが驚きの表情で立ち尽くし、常連客たちも何事かとざわつき始める。
「そんな……うちのハーブ畑で問題があるなんて聞いたこともありません!」菜々美は動揺を隠せないながらも、毅然とした口調で返す。
しかし、役人は冷静な態度を崩さなかった。「それは調査してみなければ分かりません。今から畑を確認させていただきます。」
菜々美は迷った末に頷いた。「分かりました。案内します。」
カフェから少し離れた菜々美のハーブ畑は、朝露が残る土と青々とした葉の香りが漂う、平和そのものの場所だった。役人たちは厳しい表情のまま畑に足を踏み入れ、一つ一つのハーブを丁寧に調べ始めた。
アリスとマークもそばで見守る中、菜々美は胸に沸き上がる不安を押さえ込む。
「何も出ないはずだわ。私たちの育てたハーブに問題があるなんて……。」菜々美は小さく呟くが、その声は風に流されて消えた。
数十分後、一人の役人が畑の一角で何かを手に取り、仲間に合図を送った。
「これは……。問題のある植物だ。」役人はそう断言しながら、手にした小さな草を高く掲げた。
「えっ、それは……?」菜々美が駆け寄って見ると、それは見覚えのない植物だった。細長い葉を持ち、紫がかった小さな花を咲かせているが、菜々美が育てた覚えは一切なかった。
「これは有毒成分を含む可能性が高い植物だ。町の条例では栽培が禁止されている種類だよ。」
「待ってください!」菜々美は声を上げた。「そんな植物、私は見たこともありません!この畑に植えた覚えもないんです!」
「ですが、実際にここで見つかりました。」役人の声は冷たく、菜々美の抗議を一蹴するものだった。「この件については正式に報告し、必要な処置を講じます。それまではカフェで使用されるハーブの全てを凍結しなければなりません。」
菜々美の心に重いものがのしかかる。
その夜、菜々美はカフェの片隅でリュウとガイデンに状況を説明した。
「役人たちが見つけた植物、私には全く心当たりがないの。でも、それが本当に有毒だとしたら、どうしてうちの畑にあったのか……。」
リュウは険しい表情で腕を組み、「誰かが故意に植えたんじゃないのか?」と低い声で言った。
その言葉に、ガイデンが静かに首を振りながら反論した。「その可能性も考えられるけれど、それだけじゃないわ。こういう植物の種子は、風や動物によって運ばれることもあるの。」
菜々美は驚いたようにガイデンを見つめた。「風や動物……それでうちの畑に?」
「あり得るわ。」ガイデンはテーブルに軽く指を置きながら説明を続ける。「植物の種子はとても軽いものが多いし、遠くまで飛ばされることもある。特に畑の近くに似た植物が自然に生えている場所があれば、そこから飛んできた可能性も否定できない。」
「でも、近くでそんな植物を見た覚えはないわ。」菜々美は困惑した表情を浮かべた。「この辺りで有毒な植物が生えているなんて、聞いたことがないもの。」
「それは正しいかもしれないが、動物が絡んでいるとしたらどうだ?」リュウが口を挟んだ。「鳥や小動物が種子を運んで、たまたま畑に落とした可能性もある。」
「動物……。」菜々美は思わず窓の外に目を向けた。畑に訪れる小鳥やリスの姿が思い浮かぶ。「でも、それだけであんな場所に、しかも育つほど根付くものなのかしら?」
ガイデンが柔らかく微笑んだ。「自然の力は予測できないものよ。確率は低いかもしれないけれど、不可能ではないわ。」
「つまり、誰かが意図的に植えたわけじゃなくても、この状況は起こり得るってことか。」リュウがまとめるように言った。
「ええ。」ガイデンが頷く。「それでも確かめる必要はあるわね。畑の周囲を詳しく調べてみる価値があると思う。」
菜々美は二人の意見に耳を傾けながら、胸の中に少しだけ希望が湧いてくるのを感じた。故意の犯行でない可能性があるなら、少しでも状況を改善する手がかりになるかもしれない。
「明日、畑の周りを見てみるわ。何か手掛かりが見つかるといいけど……。」
「俺も手伝う。」リュウは立ち上がりながら言った。「不自然な場所に同じ植物が生えていないか、探してみようぜ。」
「私も同行するわ。」ガイデンは穏やかな口調ながらも眉を寄せていた。「自然の痕跡は注意深く探せば見つかることもあるけれど……今回はそれだけでは説明がつかない部分も多いわ。」
菜々美は二人に感謝の笑みを向けながらも、胸の中に引っかかるものを感じていた。「ありがとう。でも、本当に自然に運ばれてきたのか、それとも誰かが意図的に……。」
リュウは腕を組み、厳しい表情を浮かべた。「自然のせいって話もあるかもしれないが、何かが怪しいのは確かだ。それに、こんなタイミングでこんな噂が立つのは偶然じゃない気がする。」
「その可能性は高いわね。」ガイデンも考え込むように頷いた。「誰かが何か意図を持って動いているとしたら、目的が何なのかを考える必要があるわ。」
「分からない。でも、今はとにかく信じてもらうしかないわ。」菜々美は声を震わせながら言った。「私たちが何もしていないって。」
翌朝になると、状況はさらに悪化していた。町の広場では、すでに噂が広まっていた。「菜々美のカフェで危険なハーブが使われている」という話は人々の間で驚くほど早く伝わり、さまざまな憶測を呼んでいた。
「なんでも、有毒な植物を育てているらしいぞ。」
「この間行ったけど、なんだか気分が悪くなったのはそのせいかもしれない。」
「しばらくあの店には行かない方がいいな。」
噂を耳にした常連客たちの中には、カフェを避けるようになる者も出てきた。
数日後、カフェはいつもより静かだった。客席の半分以上が空き、アリスとマークは不安げな表情を隠せない。
「菜々美さん、これってどうなっちゃうんですか?」アリスが心配そうに尋ねる。
「分からない。でも、私たちがやるべきことは変わらないわ。」菜々美は微笑もうとしたが、目には疲れが浮かんでいた。「このカフェで出しているものが安全であることを証明する。それだけよ。」
その言葉に、アリスとマークも小さく頷いた。
菜々美はカウンター越しにふと窓の外を見つめた。心の奥底では、誰かが意図的に仕掛けたものだという疑念が強くなっていた。だが、それを証明するには何か具体的な手掛かりが必要だ。
「負けないわ。」菜々美は心の中で自分に言い聞かせるように呟いた。
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