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1. 異世界とハーブティー
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特別なことなど何もない、いつも通りの平穏な高校生活。学校の授業は正直、勉強が苦手だし、先生の話は眠くなるし、正直つまらない。
でも、友達とダラダラおしゃべりしたり、購買の焼きそばパン争奪戦に参加したり。
そんな何事もない日常が、凡人の高校生でしかない私菜々美とっての何よりの幸せだったのかもしれない。
巷で流行りの、インスタ映えするドリンクが有名なあの「ストバ」のバイトも始めたばかりの私。
まだまだついていくのに必死で、失敗ばかりの半人前だけど、日に日に身についていくコーヒーやお茶の知識が増えていくのが何よりも楽しい。
どんなに疲れて帰っても、一刻も早く知識を身に着けたくて、図書館で借りまっくたコーヒーやお茶に関する書物を読み漁った。
勉強もせずに夜遅くまで熱心に熟読しているとなんだかお母さんの視線が痛い。
でも、別に気にしない。どうせ学校の勉強頑張ったって苦手なものは苦手だし、将来、自分でカフェを開業して、お母さんをあっと言わせてやるんだから!
「へえ~。紅茶のあの香りって、ベルガモットっていうかんきつ類が使われているんだ」
食い入るように「初心者でもよくわかる紅茶の世界」という本を読んでいたが、ふと机上の時計が23時30分を指していることに気づいた。
「ふあ~……そろそろ歯磨きして寝ないとまたおこられ……ん……?」
つぶやきかけたところで突然、視界がちかちかして、一気に暗転した。体の力が抜けていく。そこからは、何も考えられなくなった。
「あ、あれ……私、また夜更かしして、眠くなって寝ちゃったんだっけ……」
おぼろげな記憶で、まぶたをこすりながらゆっくり起き上がる。
「今、何時だろう?ずいぶん明るいけど……」
半開きの瞼で、机の上にあるはずのスマホを探そうとするも見つからない。
そもそも、机がないし、机の代わりに、植物のようなつるつるとした感触が手に触れる。
「何……ここ……!?」
私は、見知らぬ森の中にいた。周囲には高い木々が立ち並び、ギイ!という聞き慣れない鳥のような生物の不気味な声が響く。
だめだ、完全に頭が混乱している。部屋で寝落ちしただけのはずだったのに、どうしてこんな場所にいるのだろう……。
夢の中だろうとほっぺをつねったが、ただただ痛いだけ。
心臓が激しく鼓動し、呼吸が浅くなる。不安と恐怖が一気に押し寄せてきた。泣きそうになるのを必死にこらえながら、何とか立ち上がった。
「とにかく、ここから出なきゃ……」
不安定な足取りで歩き始めた私。自分がどこに向かっているのかもわからなかった。ただ、この異世界の森から抜け出したいという一心で進んでいく。
しかし、進む先に何が待ち受けているのか、まったく見当がつかなかった。
森の中を歩いていると、遠くから奇妙な音が聞こえてきた。何かが動いている音……それは、風の音とは違う、重い何かが地面を踏みしめる音だった。私は恐怖に震えながらも、音の方向へと近づいていった。
「誰か……いるの?」
声を震わせながら呼びかけた。しかし、返事はなかった。音は次第に大きくなり、何かが近づいてくるのがわかった。背後を振り返り、逃げ道を確認したが、すぐに目の前へ現れたものに凍りついた。
巨大な獣が、私の目の前に立ちはだかっていた。その獣は、まるで地獄から這い出てきたかのような恐ろしい姿をしていた。全身は漆黒の毛で覆われ、その毛並みは光を吸い込むかのように暗闇に溶け込んでいる。巨大な体躯からは圧倒的な威圧感が漂い、まるで周囲の空気が重くなるかのようだった。
獣の口元には鋭い牙が覗き、唇からは赤黒い液体が滴っていた。その牙は、簡単に獲物の骨を砕くことができるほど鋭く、見る者の背筋を凍らせる。四肢には強力な筋肉が張り詰め、その爪はまるで鋼鉄のように硬く光っている。爪の先端は鋭く尖り、一撃で敵を切り裂くことができるだろう。
最も恐ろしいのは、獣の目だった。真紅に輝く瞳は、まるで血のように鮮やかで、そこには冷酷な知性が宿っているように見えた。その瞳に射すくめられた私は、まるで石像のように動けなくなってしまった。心臓の鼓動が激しくなり、呼吸が浅くなる。全身が恐怖で震え、まるで時間が止まったかのように感じられた。
「いや……来ないで!」
必死に叫んだが、声はかすれてほとんど聞こえなかった。まるで自分の声が獣に届かないかのように、恐怖で声が出ない。獣はその叫びにもお構いなしに、ゆっくりと近づいてくる。その歩みは重く、一歩一歩が地面を震わせる。私の全身に冷たい汗が流れ、逃げたいという本能が強く訴えかけてくるが、足がまるで鉛のように重く、動かない。
なんとか逃げようと後ずさりするが、足がもつれてしまい、無様に地面に転んでしまった。冷たい土の感触が私の体を冷やし、一層の恐怖を感じさせる。視界には再び迫り来る獣の姿が映り、その牙がますます近づいてくるのがわかった。
「これで終わりなのか……」
私は絶望に駆られながら、目をぎゅっと閉じた。獣の咆哮が耳元で響き、その息遣いが感じられるほど近くに迫っていた。恐怖で体が硬直し、もう何も考えられなかった。次の瞬間には、その鋭い牙が自分を襲うのだろうと、覚悟を決めた。
しかし、その瞬間は訪れなかった。代わりに、何かが獣と私の間に割って入る音が聞こえた。恐る恐る目を開けると、視界には獣と戦う一人の青年の姿があった。
彼は剣を持ち、怪物と対峙していた。青年の素早い動きと鋭い剣さばきで、怪物はたじろぎ、一瞬の隙を突かれて倒された。
「助かった……」
地面にへたり込み、涙が溢れてきた。恐怖と安堵が混じり合い、言葉にならない感情が押し寄せてくる。青年は私のそばに寄り、優しく手を差し伸べた。
「大丈夫か?怪我はないか?」
その手を取り、何とか立ち上がった。青年の顔には優しさが溢れており、その笑顔に少しだけ安心した。
「ありがとう……本当に、ありがとう」
涙を拭いながら感謝の言葉を口にする私へ、青年は微笑んで答えた。
「俺はリュウ。君は?」
「私は……菜々美。どうしてここに……?」
リュウは私を支えながら、少し考え込んだ後、答えた。
「この森は危険な場所なんだ。君がここにいる理由はわからないが、今は安全な場所に連れて行こう」
私は頷き、リュウの後についていった。不安と恐怖はまだ消えないが、少なくとも彼の存在が一筋の希望を与えてくれた。こうして、私の異世界での新たな生活が幕を開けたのだった。
でも、友達とダラダラおしゃべりしたり、購買の焼きそばパン争奪戦に参加したり。
そんな何事もない日常が、凡人の高校生でしかない私菜々美とっての何よりの幸せだったのかもしれない。
巷で流行りの、インスタ映えするドリンクが有名なあの「ストバ」のバイトも始めたばかりの私。
まだまだついていくのに必死で、失敗ばかりの半人前だけど、日に日に身についていくコーヒーやお茶の知識が増えていくのが何よりも楽しい。
どんなに疲れて帰っても、一刻も早く知識を身に着けたくて、図書館で借りまっくたコーヒーやお茶に関する書物を読み漁った。
勉強もせずに夜遅くまで熱心に熟読しているとなんだかお母さんの視線が痛い。
でも、別に気にしない。どうせ学校の勉強頑張ったって苦手なものは苦手だし、将来、自分でカフェを開業して、お母さんをあっと言わせてやるんだから!
「へえ~。紅茶のあの香りって、ベルガモットっていうかんきつ類が使われているんだ」
食い入るように「初心者でもよくわかる紅茶の世界」という本を読んでいたが、ふと机上の時計が23時30分を指していることに気づいた。
「ふあ~……そろそろ歯磨きして寝ないとまたおこられ……ん……?」
つぶやきかけたところで突然、視界がちかちかして、一気に暗転した。体の力が抜けていく。そこからは、何も考えられなくなった。
「あ、あれ……私、また夜更かしして、眠くなって寝ちゃったんだっけ……」
おぼろげな記憶で、まぶたをこすりながらゆっくり起き上がる。
「今、何時だろう?ずいぶん明るいけど……」
半開きの瞼で、机の上にあるはずのスマホを探そうとするも見つからない。
そもそも、机がないし、机の代わりに、植物のようなつるつるとした感触が手に触れる。
「何……ここ……!?」
私は、見知らぬ森の中にいた。周囲には高い木々が立ち並び、ギイ!という聞き慣れない鳥のような生物の不気味な声が響く。
だめだ、完全に頭が混乱している。部屋で寝落ちしただけのはずだったのに、どうしてこんな場所にいるのだろう……。
夢の中だろうとほっぺをつねったが、ただただ痛いだけ。
心臓が激しく鼓動し、呼吸が浅くなる。不安と恐怖が一気に押し寄せてきた。泣きそうになるのを必死にこらえながら、何とか立ち上がった。
「とにかく、ここから出なきゃ……」
不安定な足取りで歩き始めた私。自分がどこに向かっているのかもわからなかった。ただ、この異世界の森から抜け出したいという一心で進んでいく。
しかし、進む先に何が待ち受けているのか、まったく見当がつかなかった。
森の中を歩いていると、遠くから奇妙な音が聞こえてきた。何かが動いている音……それは、風の音とは違う、重い何かが地面を踏みしめる音だった。私は恐怖に震えながらも、音の方向へと近づいていった。
「誰か……いるの?」
声を震わせながら呼びかけた。しかし、返事はなかった。音は次第に大きくなり、何かが近づいてくるのがわかった。背後を振り返り、逃げ道を確認したが、すぐに目の前へ現れたものに凍りついた。
巨大な獣が、私の目の前に立ちはだかっていた。その獣は、まるで地獄から這い出てきたかのような恐ろしい姿をしていた。全身は漆黒の毛で覆われ、その毛並みは光を吸い込むかのように暗闇に溶け込んでいる。巨大な体躯からは圧倒的な威圧感が漂い、まるで周囲の空気が重くなるかのようだった。
獣の口元には鋭い牙が覗き、唇からは赤黒い液体が滴っていた。その牙は、簡単に獲物の骨を砕くことができるほど鋭く、見る者の背筋を凍らせる。四肢には強力な筋肉が張り詰め、その爪はまるで鋼鉄のように硬く光っている。爪の先端は鋭く尖り、一撃で敵を切り裂くことができるだろう。
最も恐ろしいのは、獣の目だった。真紅に輝く瞳は、まるで血のように鮮やかで、そこには冷酷な知性が宿っているように見えた。その瞳に射すくめられた私は、まるで石像のように動けなくなってしまった。心臓の鼓動が激しくなり、呼吸が浅くなる。全身が恐怖で震え、まるで時間が止まったかのように感じられた。
「いや……来ないで!」
必死に叫んだが、声はかすれてほとんど聞こえなかった。まるで自分の声が獣に届かないかのように、恐怖で声が出ない。獣はその叫びにもお構いなしに、ゆっくりと近づいてくる。その歩みは重く、一歩一歩が地面を震わせる。私の全身に冷たい汗が流れ、逃げたいという本能が強く訴えかけてくるが、足がまるで鉛のように重く、動かない。
なんとか逃げようと後ずさりするが、足がもつれてしまい、無様に地面に転んでしまった。冷たい土の感触が私の体を冷やし、一層の恐怖を感じさせる。視界には再び迫り来る獣の姿が映り、その牙がますます近づいてくるのがわかった。
「これで終わりなのか……」
私は絶望に駆られながら、目をぎゅっと閉じた。獣の咆哮が耳元で響き、その息遣いが感じられるほど近くに迫っていた。恐怖で体が硬直し、もう何も考えられなかった。次の瞬間には、その鋭い牙が自分を襲うのだろうと、覚悟を決めた。
しかし、その瞬間は訪れなかった。代わりに、何かが獣と私の間に割って入る音が聞こえた。恐る恐る目を開けると、視界には獣と戦う一人の青年の姿があった。
彼は剣を持ち、怪物と対峙していた。青年の素早い動きと鋭い剣さばきで、怪物はたじろぎ、一瞬の隙を突かれて倒された。
「助かった……」
地面にへたり込み、涙が溢れてきた。恐怖と安堵が混じり合い、言葉にならない感情が押し寄せてくる。青年は私のそばに寄り、優しく手を差し伸べた。
「大丈夫か?怪我はないか?」
その手を取り、何とか立ち上がった。青年の顔には優しさが溢れており、その笑顔に少しだけ安心した。
「ありがとう……本当に、ありがとう」
涙を拭いながら感謝の言葉を口にする私へ、青年は微笑んで答えた。
「俺はリュウ。君は?」
「私は……菜々美。どうしてここに……?」
リュウは私を支えながら、少し考え込んだ後、答えた。
「この森は危険な場所なんだ。君がここにいる理由はわからないが、今は安全な場所に連れて行こう」
私は頷き、リュウの後についていった。不安と恐怖はまだ消えないが、少なくとも彼の存在が一筋の希望を与えてくれた。こうして、私の異世界での新たな生活が幕を開けたのだった。
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