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第15話「予期せぬ依頼」
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それはろ過水ビジネスを開始して1週間ばかり経った頃の出来事だ。
寒空の下、配達を終えてオフィスに戻って来たリアムを労うために、はちみつ紅茶を用意していると、玄関のベルの音が鳴り響いた。
朝も早くからオフィスに顔を出した人物は、このヤレドの街で3代続く薪問屋を営むネイト・グロール。
王城に薪や木炭を納品するような名門商会の主であるが…
熊のようにむさ苦しいおっさんなせいで、一見すると、酒場の主に見えなくもない。
(もしかして、さっそく口コミ効果が?)
と色めき立った俺とリアムだったが、残念ながらネイトはろ過水に興味を持っているわけではなかったようだ。
「実は、とあるやんごとなきお方からの依頼を取り次いでまして…」
「時間の融通がつくようでしたら…」
「私の屋敷にお越し頂けないでしょうか?」
応接室に招き入れ、商談の準備を整えていた俺たちの前で、ネイトは意外すぎるサプライズを口にした。
グロール家がへりくだるような依頼主ともなれば、普通に考えれば貴族。
それも商売に影響を及ぼすような大権力者である可能性が高い。
どんな依頼かは想像出来ないが、ここで人脈を作っておけば、王城や貴族の屋敷にろ過水を納入するチャンスも生じるが…
(法も安全もあってないような中世社会)
(下手に野心を抱いてお偉いさんに関わると…)
(陰謀に巻き込まれて投獄されたり…)
(冤罪で首が飛ぶ可能性すらあるからな…)
ましてや、ここは大陸最狂と揶揄される帝国主義国家のメトシェラ。
権力者が善人という前提は、まず成立しないだろう。
即断出来る話でもなかったため、席を外し、リアムと2人きりで話し合いをしてみると…
「いくらエイジさんだって…」
「こんな機会、早々ありませんよ」
「ここで成功すれば…」
「貴族たちとのコネだって出来ますし…」
「功績を重ねれば王城への任官の道だって…」
及び腰の俺とは裏腹に、リアムの奴はやる気満々の様子だった。
基本的な話、世襲貴族だけで国家を運営する人材を賄える国は存在しない。
メトシェラでも、能力のある民間人が国の要職を務めるルートは存在した。
例えば、経済観念のない貴族たちに代わり、国家の財政を切り盛りする役職を任される商人がいたり…
戦争をする際も、兵站を担当するのは商人あがりの将軍だったりもする。
無論、名を挙げた冒険者が騎士に登用されるルートも存在するため、元冒険者のリアムにとって、王城への登用は憧れの夢の1つだったようだ。
(なるほど)
(この手の話になると…)
(ついつい商機ばかりに気にしてしまうが…)
(この世界の人間にとっては…)
(立身出世のチャンスでもあるのか)
正直な話、現状のぶらぶらとしたお気楽生活が気に入っていることもあり、王城の官僚になりたい野望など微塵もないが…
リアムの興奮した様子を見ていると、無下に依頼を断る事も気が引ける状況ではある。
(俺もこの街じゃそこそこ有名人だし…)
(いくら貴族だって…)
(依頼に失敗したくらいで、手荒な真似なんて出来ないはずだよな)
そのため、ここは方針を転換し、危険を承知でネイトからの依頼を受けてみることにした。
その後は、グロール家所有の豪華な馬車に乗り、ネイトの屋敷に向かったわけだが…
高級ホテルのラウンジのような客室では、いかにも頭の切れそうな雰囲気を漂わせた老人が待っていた。
寒空の下、配達を終えてオフィスに戻って来たリアムを労うために、はちみつ紅茶を用意していると、玄関のベルの音が鳴り響いた。
朝も早くからオフィスに顔を出した人物は、このヤレドの街で3代続く薪問屋を営むネイト・グロール。
王城に薪や木炭を納品するような名門商会の主であるが…
熊のようにむさ苦しいおっさんなせいで、一見すると、酒場の主に見えなくもない。
(もしかして、さっそく口コミ効果が?)
と色めき立った俺とリアムだったが、残念ながらネイトはろ過水に興味を持っているわけではなかったようだ。
「実は、とあるやんごとなきお方からの依頼を取り次いでまして…」
「時間の融通がつくようでしたら…」
「私の屋敷にお越し頂けないでしょうか?」
応接室に招き入れ、商談の準備を整えていた俺たちの前で、ネイトは意外すぎるサプライズを口にした。
グロール家がへりくだるような依頼主ともなれば、普通に考えれば貴族。
それも商売に影響を及ぼすような大権力者である可能性が高い。
どんな依頼かは想像出来ないが、ここで人脈を作っておけば、王城や貴族の屋敷にろ過水を納入するチャンスも生じるが…
(法も安全もあってないような中世社会)
(下手に野心を抱いてお偉いさんに関わると…)
(陰謀に巻き込まれて投獄されたり…)
(冤罪で首が飛ぶ可能性すらあるからな…)
ましてや、ここは大陸最狂と揶揄される帝国主義国家のメトシェラ。
権力者が善人という前提は、まず成立しないだろう。
即断出来る話でもなかったため、席を外し、リアムと2人きりで話し合いをしてみると…
「いくらエイジさんだって…」
「こんな機会、早々ありませんよ」
「ここで成功すれば…」
「貴族たちとのコネだって出来ますし…」
「功績を重ねれば王城への任官の道だって…」
及び腰の俺とは裏腹に、リアムの奴はやる気満々の様子だった。
基本的な話、世襲貴族だけで国家を運営する人材を賄える国は存在しない。
メトシェラでも、能力のある民間人が国の要職を務めるルートは存在した。
例えば、経済観念のない貴族たちに代わり、国家の財政を切り盛りする役職を任される商人がいたり…
戦争をする際も、兵站を担当するのは商人あがりの将軍だったりもする。
無論、名を挙げた冒険者が騎士に登用されるルートも存在するため、元冒険者のリアムにとって、王城への登用は憧れの夢の1つだったようだ。
(なるほど)
(この手の話になると…)
(ついつい商機ばかりに気にしてしまうが…)
(この世界の人間にとっては…)
(立身出世のチャンスでもあるのか)
正直な話、現状のぶらぶらとしたお気楽生活が気に入っていることもあり、王城の官僚になりたい野望など微塵もないが…
リアムの興奮した様子を見ていると、無下に依頼を断る事も気が引ける状況ではある。
(俺もこの街じゃそこそこ有名人だし…)
(いくら貴族だって…)
(依頼に失敗したくらいで、手荒な真似なんて出来ないはずだよな)
そのため、ここは方針を転換し、危険を承知でネイトからの依頼を受けてみることにした。
その後は、グロール家所有の豪華な馬車に乗り、ネイトの屋敷に向かったわけだが…
高級ホテルのラウンジのような客室では、いかにも頭の切れそうな雰囲気を漂わせた老人が待っていた。
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