11 / 13
第11話「岐路」
しおりを挟む
大怪我から奇跡の生還を果たしたといっても、万事解決とならないところが、冒険者稼業の難しいところだ。
リアムの奴も自宅に戻るなり、ハンナから物凄い剣幕で冒険者引退を迫られたそうだ。
「ウチは母1人子1人なうえ…」
「オフクロはセト村からの上京組なんでヤレドに兄弟すらいませんし」
「俺が死んじまったら、本当にオフクロが1人になっちゃいますからね」
元々、ハンナに楽をさせようと、稼ぎの半分を生活費として家に入れていた孝行息子のリアム。
それゆえに、母親を1人残して死ぬことへの恐怖を存分味わった後は、ハンナのお説教に反発する気力も失っていたらしく…
しょぼくれた様子で我が家を訊ねて来た時には、既に引退の決意を固めていた。
花形職ではあるが、肉体労働の究極の冒険者稼業。
大抵の人間にとっては、一生出来る仕事ではなく、怪我や結婚などでフェードアウトするパターンが一般的だ。
極端な例でいえば、最初のクエストで適正のなさを思い知り、引退を余儀なくされる冒険者だって存在する。
それだけに、18歳での引退は、世間的に見ても決して早い年齢ではないが…
問題は、セカンドキャリアをどうするかだ。
「冒険者を始めたばかりの頃は…」
「駄目だったら職人になればいいかくらいに考えていたんですど…」
「もうこの年齢でしょ?」
「今更丁稚で始めるには、さすがにキツイもんがありますよね」
一般的な就業年齢が12歳程度なこの世界。
同世代は既に一人前の職人としてバリバリ働いている頃合いだ。
これから目指す職業としてはあまりに非現実的すぎるし、そもそも受け入れてくれる工房がないだろう。
本来ならば、親しき仲の俺が弟子にし、薬師のノウハウを叩きこんでやればいいんだろうが…
薬師は東洋人種限定ジョブ。
白人のリアムでは、クラスチェンジすら不可能な現実があった。
そうなると、冒険者時代の信用や人脈を活かして、武器屋や防具屋なんかを開店する路線が無難と言えるが…
(リアムの怪我を治すために…)
(ハンナさんのへそくりも使い切っちまったらしいしな)
高位神官を派遣して貰うために、家一軒買えるレベルの出費をしたばかりのグラバー家では、武器や防具を仕入れるお金も残っていない状況だ。
(冒険者のセカンドキャリアか…)
(ホント悩ましい問題ではあるよな)
今更何かをやり直すには、中途半端な年齢で引退するケースが多いせいか…
リアムに限らず、冒険者のセカンドキャリアでの不遇さは、この世界でも大きな社会問題となっていた。
現役時代によほどお金を貯め込んだ者以外は、倉庫労働者になれれば御の字。
繁華街の用心棒からマフィアに転落する者もいれば、貧民街を根城にした窃盗団の一員となる者も珍しくない。
(何とか良い道を考えてやらないといかんよな…)
一通り悩みをぶちまけてすっきりしたのか、多少は気が楽になった様子で自宅に戻るリアムを見送った後は…
リアムのセカンドキャリアのヒントを掴むため、近所の商店街をぶらつくことにした。
スーパーやコンビニ、ドラックストアなんて存在だにしない世界だ。
商店街には、小規模な日用雑貨店や食料品店が立ち並び、買い物客で賑わっていた。
中には小資本でも開業出来そうな商売もあるが…
大量消費時代以前の社会構造なため、店を経営するにあたり、何かしらの職人技が必要なケースが多い。
例えば金物屋なら、切れ味の落ちた包丁を砥石で研ぐくらいのアフターサービスは必要だし、桶屋なら桶のタガの緩みくらいは修理出来ないと商売にならない。
(何の下積みもなしに開業出来る商売なんて…)
(やっぱりあるわけないよな)
小1時間ほど街ブラをすると喉も乾いてきたので、たまたま目に入ったレモネード屋で一服することにした。
元魔王軍の居城だが、大昔は人口数百人程度の散村に過ぎなかったヤレド。
実は地下水源が豊富ではないため、ため池や川などに水道管を通し井戸に水を引いている。
そのせいで、水質も悪く生の水など飲めたものではないため、水を加工した飲料が大変に人気で、街のあちこちにレモネード屋や喫茶店が点在する。
(いくら水が悪いっても…)
(水にレモン汁と砂糖を混ぜただけの飲み物がこんなに人気なんだから…)
(商売なんてわからないもんだよな)
そんなことをぼんやりと考えながら、ウエイトレスが運んで来たレモネードで喉を潤した瞬間。
(…もしかすると、アレをああすれば…)
(結構な商売になるんじゃないか?)
俺の脳裏に「ピカーンッ!」と閃くアイデアが思い浮かんで来た。
居てもたってもいられなくなった俺は、大急ぎでレモネードを飲み干すと、とある目的地に向けて走り出すことになった。
リアムの奴も自宅に戻るなり、ハンナから物凄い剣幕で冒険者引退を迫られたそうだ。
「ウチは母1人子1人なうえ…」
「オフクロはセト村からの上京組なんでヤレドに兄弟すらいませんし」
「俺が死んじまったら、本当にオフクロが1人になっちゃいますからね」
元々、ハンナに楽をさせようと、稼ぎの半分を生活費として家に入れていた孝行息子のリアム。
それゆえに、母親を1人残して死ぬことへの恐怖を存分味わった後は、ハンナのお説教に反発する気力も失っていたらしく…
しょぼくれた様子で我が家を訊ねて来た時には、既に引退の決意を固めていた。
花形職ではあるが、肉体労働の究極の冒険者稼業。
大抵の人間にとっては、一生出来る仕事ではなく、怪我や結婚などでフェードアウトするパターンが一般的だ。
極端な例でいえば、最初のクエストで適正のなさを思い知り、引退を余儀なくされる冒険者だって存在する。
それだけに、18歳での引退は、世間的に見ても決して早い年齢ではないが…
問題は、セカンドキャリアをどうするかだ。
「冒険者を始めたばかりの頃は…」
「駄目だったら職人になればいいかくらいに考えていたんですど…」
「もうこの年齢でしょ?」
「今更丁稚で始めるには、さすがにキツイもんがありますよね」
一般的な就業年齢が12歳程度なこの世界。
同世代は既に一人前の職人としてバリバリ働いている頃合いだ。
これから目指す職業としてはあまりに非現実的すぎるし、そもそも受け入れてくれる工房がないだろう。
本来ならば、親しき仲の俺が弟子にし、薬師のノウハウを叩きこんでやればいいんだろうが…
薬師は東洋人種限定ジョブ。
白人のリアムでは、クラスチェンジすら不可能な現実があった。
そうなると、冒険者時代の信用や人脈を活かして、武器屋や防具屋なんかを開店する路線が無難と言えるが…
(リアムの怪我を治すために…)
(ハンナさんのへそくりも使い切っちまったらしいしな)
高位神官を派遣して貰うために、家一軒買えるレベルの出費をしたばかりのグラバー家では、武器や防具を仕入れるお金も残っていない状況だ。
(冒険者のセカンドキャリアか…)
(ホント悩ましい問題ではあるよな)
今更何かをやり直すには、中途半端な年齢で引退するケースが多いせいか…
リアムに限らず、冒険者のセカンドキャリアでの不遇さは、この世界でも大きな社会問題となっていた。
現役時代によほどお金を貯め込んだ者以外は、倉庫労働者になれれば御の字。
繁華街の用心棒からマフィアに転落する者もいれば、貧民街を根城にした窃盗団の一員となる者も珍しくない。
(何とか良い道を考えてやらないといかんよな…)
一通り悩みをぶちまけてすっきりしたのか、多少は気が楽になった様子で自宅に戻るリアムを見送った後は…
リアムのセカンドキャリアのヒントを掴むため、近所の商店街をぶらつくことにした。
スーパーやコンビニ、ドラックストアなんて存在だにしない世界だ。
商店街には、小規模な日用雑貨店や食料品店が立ち並び、買い物客で賑わっていた。
中には小資本でも開業出来そうな商売もあるが…
大量消費時代以前の社会構造なため、店を経営するにあたり、何かしらの職人技が必要なケースが多い。
例えば金物屋なら、切れ味の落ちた包丁を砥石で研ぐくらいのアフターサービスは必要だし、桶屋なら桶のタガの緩みくらいは修理出来ないと商売にならない。
(何の下積みもなしに開業出来る商売なんて…)
(やっぱりあるわけないよな)
小1時間ほど街ブラをすると喉も乾いてきたので、たまたま目に入ったレモネード屋で一服することにした。
元魔王軍の居城だが、大昔は人口数百人程度の散村に過ぎなかったヤレド。
実は地下水源が豊富ではないため、ため池や川などに水道管を通し井戸に水を引いている。
そのせいで、水質も悪く生の水など飲めたものではないため、水を加工した飲料が大変に人気で、街のあちこちにレモネード屋や喫茶店が点在する。
(いくら水が悪いっても…)
(水にレモン汁と砂糖を混ぜただけの飲み物がこんなに人気なんだから…)
(商売なんてわからないもんだよな)
そんなことをぼんやりと考えながら、ウエイトレスが運んで来たレモネードで喉を潤した瞬間。
(…もしかすると、アレをああすれば…)
(結構な商売になるんじゃないか?)
俺の脳裏に「ピカーンッ!」と閃くアイデアが思い浮かんで来た。
居てもたってもいられなくなった俺は、大急ぎでレモネードを飲み干すと、とある目的地に向けて走り出すことになった。
1
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました
平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。
騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。
そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる