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第8話「意外な結末」
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(もしかすると…)
(家庭を省みない父親に対する当てつけとか…)
(そんな展開だったりするのかな?)
オリオ・ズバーンの人となりまでは知らないが…
何せ、あの遊び人と名高いキース・タイラーの友人だ。
外に愛人を作り、ろくに家に帰って来ないような父親失格すぎる人物の可能性はある。
(前世でも起業家なんて…)
(女性絡みの醜聞が当たり前だったりしたもんな)
だとすると、マイクが仮病で家を引っ掻き回すことも理解は出来る。
(ここは怒らずに、彼の言い分もしっかりと聞いてやらないとな)
マイクが心を閉ざさないように、慎重に事情を訊ねてみたところ…
「実は、もうじき13歳になるんですが…」
「誕生日が来たら、父の知り合いの店へ修行に行かないとならないんですよ」
「それが憂鬱で憂鬱で…」
マイクの口から、とんでもない言い訳の言葉が返って来た。
これまで箱入り息子として何不自由のない暮らしを送って来たマイクだが、将来のズバーン商会を支えることを期待されている身。
いつまでもぬくぬくした生活が続けられるわけではないようだ。
「特に、次男であるボクには…」
「出店計画が進行中のマハラレル支店を任せたいなんて…」
「父の意向があったりするもんで」
「修行期間も兄より2年も多い5年の予定なんですよ」
おまけに、修業期間中は、特別扱いもなく他の丁稚たちと同じ立場で商売のイロハを叩き込まれるそうだ。
無能な2代目が会社を傾けるなんて話は、前世でも腐るほど聞いてきただけに、むしろ好感が持てるオリオの方針だが…
丁稚といえば、大部屋に雑魚寝でプライバシーもないうえ、朝から晩まで雑務に追われるブラック労働中のブラック労働。
この世界の少年少女にとっては、当たり前の下積み期間なのだろうが、花よ花よで育った御曹司には、耐えられない環境には違いない。
「だったら、仮病なんて使わずに…」
「画家や彫刻家でも目指して…」
「過酷な修行を回避して見ればいいんじゃないでしょうかね?」
そのため、いっそのこと跡取りルートから外れて、気楽に生きてみてはとのアドバイスを送ってみたところ…
「それが、兄が以前にその方法で修行を回避しようとしたら…」
「激怒した父に勘当されそうになったことがありまして…」
マイクは青ざめた顔で意外な過去を明らかにした。
実は、オリオという男。
若い頃に、キザな画家に恋人を寝取られたことがあったらしい。
そのせいか、大商人の王道のパトロン活動などもしておらず、息子たちの家庭教師にすら男性は選ばない徹底ぶりだとか。
(高位神官ですら解決出来なかったわけだわ…)
あまりに複雑すぎるズバーン家の事情に、正直、打つ手も見つからない状況と言えるが…
(金貨50枚も前金貰っているしな)
(解決出来ませんでしたじゃ、さすがに申し訳ないよな)
一度仕事を引き受けた以上は、このまま無責任に投げ出すわけにもいかない。
(とりあえず…)
(テンションの上がる怪しくない薬でも処方しておくか…)
応急処置的なやっている感を出した後は、1週間後に再度来訪することをオリオに約束し、いったん帰宅することにした。
とはいえ、こんな展開にもなると、一介の薬師に取れる手段は限られている。
結局、1週間たっても解決方法を見出せないまま、再びズバーン邸に向かう羽目になってしまった。
(こうなったら…)
(素直にオリオさんに謝罪でもして…)
(別の人間にあたって貰うしかないか)
そんなことをぼんやりと考えながら馬車にゆられズバーン邸に着いてみると、玄関で待ち構えていたオリオは何故か満面の笑み。
さらには…
「エイジさんのおかげで、息子の体調もすっかり良くなって…」
との衝撃的発言まで飛び出した。
(おかしいな?)
(あの薬はただのエナジードリンクもどき)
(そこまでの効果はないはずだが…)
不思議に思い、マイクの部屋に行ってみると、机に向かい簿記の勉強に勤しむ少年の姿があった。
まるで別人のような変りぶりに首をかしげていると、俺の気配に気が付いたマイクが、にこやかな顔で話しかけて来た。
「実は、エイジさんの薬のおかげで多少気持ちが前向きになったので…」
「覚悟を決めて修行先の下見に行ってきたんですよ」
「そしたら、思ったほど悪くはない職場みたいで…」
どうやら、マイクの修行先は、女主人が営む小麦問屋だったようだ。
そのせいか、女性の使用人なども多く、店先を案内してくれた丁稚などはとびきりの美少女。
すっかり一目惚れをしてしまったマイクは、彼女たちと一緒に働ける期待感で胸が高まっているようだ。
「ウチの母も父の下積み時代の仲間だったみたいでして…」
「これも何かの運命ですよね」
単純といえば単純すぎるマイクの変り身の速さではあるが、いつの時代も少年に大志を抱かせるのは愛らしい少女。
(これもこの世界なりの青春ってやつなんだろうな)
まさに塞翁が馬の結末に、俺はひと安心してズバーン邸を後にすることになった。
(家庭を省みない父親に対する当てつけとか…)
(そんな展開だったりするのかな?)
オリオ・ズバーンの人となりまでは知らないが…
何せ、あの遊び人と名高いキース・タイラーの友人だ。
外に愛人を作り、ろくに家に帰って来ないような父親失格すぎる人物の可能性はある。
(前世でも起業家なんて…)
(女性絡みの醜聞が当たり前だったりしたもんな)
だとすると、マイクが仮病で家を引っ掻き回すことも理解は出来る。
(ここは怒らずに、彼の言い分もしっかりと聞いてやらないとな)
マイクが心を閉ざさないように、慎重に事情を訊ねてみたところ…
「実は、もうじき13歳になるんですが…」
「誕生日が来たら、父の知り合いの店へ修行に行かないとならないんですよ」
「それが憂鬱で憂鬱で…」
マイクの口から、とんでもない言い訳の言葉が返って来た。
これまで箱入り息子として何不自由のない暮らしを送って来たマイクだが、将来のズバーン商会を支えることを期待されている身。
いつまでもぬくぬくした生活が続けられるわけではないようだ。
「特に、次男であるボクには…」
「出店計画が進行中のマハラレル支店を任せたいなんて…」
「父の意向があったりするもんで」
「修行期間も兄より2年も多い5年の予定なんですよ」
おまけに、修業期間中は、特別扱いもなく他の丁稚たちと同じ立場で商売のイロハを叩き込まれるそうだ。
無能な2代目が会社を傾けるなんて話は、前世でも腐るほど聞いてきただけに、むしろ好感が持てるオリオの方針だが…
丁稚といえば、大部屋に雑魚寝でプライバシーもないうえ、朝から晩まで雑務に追われるブラック労働中のブラック労働。
この世界の少年少女にとっては、当たり前の下積み期間なのだろうが、花よ花よで育った御曹司には、耐えられない環境には違いない。
「だったら、仮病なんて使わずに…」
「画家や彫刻家でも目指して…」
「過酷な修行を回避して見ればいいんじゃないでしょうかね?」
そのため、いっそのこと跡取りルートから外れて、気楽に生きてみてはとのアドバイスを送ってみたところ…
「それが、兄が以前にその方法で修行を回避しようとしたら…」
「激怒した父に勘当されそうになったことがありまして…」
マイクは青ざめた顔で意外な過去を明らかにした。
実は、オリオという男。
若い頃に、キザな画家に恋人を寝取られたことがあったらしい。
そのせいか、大商人の王道のパトロン活動などもしておらず、息子たちの家庭教師にすら男性は選ばない徹底ぶりだとか。
(高位神官ですら解決出来なかったわけだわ…)
あまりに複雑すぎるズバーン家の事情に、正直、打つ手も見つからない状況と言えるが…
(金貨50枚も前金貰っているしな)
(解決出来ませんでしたじゃ、さすがに申し訳ないよな)
一度仕事を引き受けた以上は、このまま無責任に投げ出すわけにもいかない。
(とりあえず…)
(テンションの上がる怪しくない薬でも処方しておくか…)
応急処置的なやっている感を出した後は、1週間後に再度来訪することをオリオに約束し、いったん帰宅することにした。
とはいえ、こんな展開にもなると、一介の薬師に取れる手段は限られている。
結局、1週間たっても解決方法を見出せないまま、再びズバーン邸に向かう羽目になってしまった。
(こうなったら…)
(素直にオリオさんに謝罪でもして…)
(別の人間にあたって貰うしかないか)
そんなことをぼんやりと考えながら馬車にゆられズバーン邸に着いてみると、玄関で待ち構えていたオリオは何故か満面の笑み。
さらには…
「エイジさんのおかげで、息子の体調もすっかり良くなって…」
との衝撃的発言まで飛び出した。
(おかしいな?)
(あの薬はただのエナジードリンクもどき)
(そこまでの効果はないはずだが…)
不思議に思い、マイクの部屋に行ってみると、机に向かい簿記の勉強に勤しむ少年の姿があった。
まるで別人のような変りぶりに首をかしげていると、俺の気配に気が付いたマイクが、にこやかな顔で話しかけて来た。
「実は、エイジさんの薬のおかげで多少気持ちが前向きになったので…」
「覚悟を決めて修行先の下見に行ってきたんですよ」
「そしたら、思ったほど悪くはない職場みたいで…」
どうやら、マイクの修行先は、女主人が営む小麦問屋だったようだ。
そのせいか、女性の使用人なども多く、店先を案内してくれた丁稚などはとびきりの美少女。
すっかり一目惚れをしてしまったマイクは、彼女たちと一緒に働ける期待感で胸が高まっているようだ。
「ウチの母も父の下積み時代の仲間だったみたいでして…」
「これも何かの運命ですよね」
単純といえば単純すぎるマイクの変り身の速さではあるが、いつの時代も少年に大志を抱かせるのは愛らしい少女。
(これもこの世界なりの青春ってやつなんだろうな)
まさに塞翁が馬の結末に、俺はひと安心してズバーン邸を後にすることになった。
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